第12話 高高度の初体験【マルティナside】

 いち早く行動したのは、別のシミュレーションルームにいたマルティナだ。

 疑似的に動かせる状態から、強制排除。


 爆発ボルトが作動して、通常の手順を無視した解放へ……。


 自身のPS(パワードスーツ)である専用機『ファントム・ブルー』を身につけたまま、2本の足で走り出す。

 同時に、大音量で警告。


退きなさい!』


 2mの巨人となったマルティナは、装甲に覆われた足を動かし続ける。

 深い足跡が残るも、それどころではない。


 生徒たちは押し合いへし合いだが、何とか道を開けた。

 すぐに識別するため、彼女の顔は見える状態だ。


 PS学園の出入口が詰まっていることを見た彼女は、外に面している内壁を向いた。


『ここを壊しますわ! 全員、離れて伏せなさい!!』


 遠ざかる生徒たちに構わず、マルティナは『ファントム・ブルー』の青いビームソードで輪郭を作った後で、スラスターによる加速を伴う体当たり。


 ようやく青空の下へ出たマルティナは、背中に2つあるウィングバーニアを広げながら通信。


『ファントム・ブルーより学園本部へ! 大気圏外への上昇許可を求む!』


『上空へのガイドラインを形成する。確認後に、全力で上昇せよ! 以後、自由戦闘!』

『ファントム・ブルー、了解』


 ビ―――ッ!


 光る筒がマルティナを中心に形成され、周囲に危険を知らせる。


“危険!”


“PS発進中!”


 音声による警告も。


『上空へのPS出撃を行う! 光るガイドラインの内側に立ち入らず、その場に伏せるか、屋内に退避せよ!』


 周囲が大慌てで遠ざかる。

 一部の生徒は、近くで避難誘導をしつつの補助へ。


 カウントダウンを見た補助者が、その場で伏せる。


 上空だけを見ているマルティナは、発進のクリアランスになった瞬間に最大加速。


 旧時代のロケットを上回る速度で、天を貫く青い閃光となった。

 約3秒で、高高度。


 センサーで、他にも5機が発進したと理解。


「初めての実戦ですわ……」


 宇宙に限りなく近い、ニューアースを守るための最前線。


 上をドームのように覆う暗闇から、ピンク色の光がいくつも見え――


「4機!」


 肌で感じたマルティナは、ファントム・ブルーの推力により、相手のビームの間に挟まりつつ、距離を詰めた。

 同時に、ビームライフルを撃ち込む。


「まず1機!」


 ヘッドオンで、相手を落とせた。

 運がいい。


 手足を振りつつのスラスター噴射で、後ろを向く。


 すぐに最大加速。


「んんっ!」


 慣性制御をしていても、声が漏れた。


 数はこちらが有利と思いきや――


『ああああっ! 来るんじゃねえっ!』


 味方の1機が、めくら撃ち。


 そのビームを避けることで、マルティナは手一杯に……。


「落ち着きなさい! 緊急発進をした直後ですよ!?」


 ビームライフルを連射していたPSは、距離を詰めたマシンクリーガーから直撃を受ける。


『シ、シールドバリアーがあるんだ! これぐら――』


 交差しつつ、2機からのビームが当たった。


 一発目は防げたが、二発目は彼の前面装甲を襲う。


『あ゛……れ゛?』


 それが、彼の遺言となった。

 ビームソードで斬りつけられ、顔の肉が溶け、頭蓋骨から姿を消す。


 撃たれた鳥のように大破したPSが、宇宙と接する高高度から落下していく。


 それを見ていたPS4機が、動揺する。


『う、嘘?』

『PSは無敵じゃないのかよ?』

『死にたくない!』


 全力で上昇した場合は、一時的にエネルギーが枯渇する。

 教本の初歩ですよ!?


 歯噛みしたマルティナは、すぐに指揮を執る。


「落ち着きなさい! 数はこちらが有利――」

『うわああああああっ!』


 1機が、ヒット&アウェイで飛ぶマシンクリーガーの小隊を追いかけた。


「戻りなさい! 狙われます!!」


 ビームライフルで狙撃するも、味方のPSが間にいて、チャンスは少ない。


 相手がこちらに来るのだから、わざわざ追う必要はないのだ……。



 他の味方が誤射した。


『ご、ごめんなさい!』


 ビームの直撃で体勢を崩しつつ、こちらを向いたPSは、まるでスポーツの試合中のように文句を言う。


『おぶっ! な、何をするんだよ!?』

「全力で降下しなさい!!」


 マルティナが叫ぶも、空中で反転したマシンクリーガーの小隊は、その腕を伸ばしてピンク色のビームソードを煌めかせた。


 それぞれに、通り過ぎるタイミングで斬りつけていく。


『あっ……』


 一撃目を防いで弾かれたものの、二撃目で背中の推進ユニットか制御系をやられたようだ。

 回転しながら、自由落下。


『た、助けて……助けてええええええっ!』


 それを見た3機が、救助に向かう。


「1機だけで! 支援しないと全員やられますよ!?」


 必死に敵の小隊を撃つも、1人だけで奮闘していたマルティナは、もはや高度を保つのがやっと……。


 無防備になったPSを見逃すはずもなく、敵の小隊は上から襲い掛かる。


 この時――


 マルティナは、新たにマシンクリーガー12機を捉えた。


「あ……。ああ……」


 それは死神だった。

 全身が脱力したことでの下半身の熱さも、気にする余裕がない。


 今から急降下をしても、振り切れず。



 自分に照準が向けられていると知りつつ、動けない。


 その時に、12機の興味が変わった。


 下にいた敵反応が消えて、そちらへ一斉に向かい出す。



 マルティナが見れば、打ち上げ用の巨大なユニットに接続されたPS。


「灰色の機体? データベースでは……シルバー・ブレイズ!? そんな?」


 ユニットを切り離したPSは、装甲があるものの、シルエットは伝説のヘビーキャルよりもマッシブな印象だ。

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