第11話 持つ者と持たざる者の差

 地球と似たニューアース。

 それを背景に、衛星軌道上の空母から宇宙戦闘機が発艦していく。


 けれど、獰猛どうもうなシルエットの戦闘機は敵に翻弄され、次々に堕とされるだけ。


 空母のブリッジで、通信兵が叫ぶ。


『こちら、フォートレス1! ミサイル攻撃は防がれた! 艦載機も、白兵戦になったことで対応できず! 敵だ! あ、あいつらが……』


 ――マシンクリーガーの連中が来やがった!!



 ◇



 PS(パワードスーツ)学園のシミュレーションルームで、約2mの背中を預けるシートと手足だけのマシンに背中を預けた。


 俺の体を包み込むように、手足から胴体にかけて、装着される。


 顔の前にある画面では、PS科1年のマルティナの顔。


『率直に申し上げますわ! このシミュレーションで私に善戦できないようなら、自主的に入学希望を取り下げなさい!』


 突然のことで返事に困っていたら、口調を優しくした彼女が説明する。


『あなたには、PS適性がありませんわ……。それに……』

「それに?」


 逡巡したマルティナは、意を決して告げる。


『キャロリーヌさんは、ウチで活躍するだけのパイロットです! わたくしと同じく、1年でシルバーソードも夢ではありませんわ! しかし、それには邪魔なのです』


 俺のことか……。


『PSに乗れない時点で、あなたはココに向いていません! かといって、キャロリーヌさんに未練を残すのも、残酷ですよ? PS競技会のレギュラーとして入賞できる才能を潰すつもりで? どうせ高校が違えば、ろくに会えず、今の仲間を優先するだけ。こういう時には、男子のほうが乗り遅れます! 「付き合っているつもりで、いつの間にか別の男子に奪われていた」と1人で泣くよりも、両想いのうちで綺麗に別れたほうが、お互いのためです』


 …………


『コンピュータ群の推薦があろうと、生徒のわたくし達が認めなければ、まともな高校生活になりませんわ……。PSに乗らない科もあるにはありますが、適性ゼロは前代未聞です! 強引に入ったところで、後ろ指をさされ肩身が狭いまま、称賛されるキャロリーヌさんを遠くから見るだけに――』

「先輩が負けたら、どうするんですか!?」


 顔をしかめたマルティナは、苛立たしげに教える。


『わたくしはシルバーソードで、専用機があるのですよ!? 中学ですらPSに乗っていない方では、相手になりません!』


「返事をしてください」


 ため息を吐いたマルティナは、答える。


『補給科あたりに、わたくしが推薦します……。そろそろ、始めますわね?』


 呆れ顔のまま、彼女は消えた。



 キャロリーヌが使っていたのと同じ、量産機『アージェン』。

 それをプレートアーマーのように纏った俺は、1人だけの狭い空間で息を吐いた。


 こいつは何の特徴もない人型で、それだけに扱いやすい。

 両手で持ちつつ、腕の側面や腰などにオプションをつけられる。


 すでにロボの腕となった部分を動かし、できるだけ重武装に。

 ダミーの派手な色のミサイルポッドなどが、伸びてきたアームで装備されていく。


 俺自身も、PSを纏ったまま、背中に繋がっている太いアームで空中に浮かぶ。



「分かっているんだよ、そんな事は……」


 涙で滲んだ視界に、俺の独白が流れた。


 空中に浮かぶ画面は、シミュレーターが起動していることを告げる。



 ずっと一緒だった。

 だが、じきに中学を卒業して、それぞれの進学先、または就職先。


 同じ教室で気を遣ってくれるキャロリーヌや梨依奈りいなとも、自然消滅だ……。


「フロンティア行きになった武志たけしはアレだが……。俺も、あいつらと綺麗に別れたほうが良いかもな? あとで、逆恨みになるよりは」


 自機のステータスを見る気になれず、うつむいたまま、シミュレーションの開始を待つ。


 …………


 そうだな。


 あの先輩には腹が立ったが、ムカつくことに何も反論できない。


 キャロリーヌは、ここの若きエースを相手に善戦。

 すぐ実機に触って、稼働時間を伸ばす。

 対する俺は、シミュレーションを行うのが、やっとだ。


 梨依奈も、専門的な分野に足を踏み入れる。


「これが終わったら、もう帰るか……」


 そうだ。

 ここは俺の居場所じゃない。


 歓迎された女子2人は遅くなるだろうし、生徒会室で会った片方に言って、早めに帰ろう。

 日を改めて、ヘビーキャルの高校に見学を――


 気づけば、ボタボタと涙を流していた。


 止めようとするも、それは叶わず。


「泣くな……。泣くんじゃねえよ……」


 頭を横に振って自分を𠮟咤激励するも、まったく気力が湧かない。


 せめて、シミュレーションで棒立ちのまま撃破されるのだけは、と決意した俺は、何とか頭を上げて――


 ウ―――ッ!


『ニューアース統合司令部より総員へ! 現在、この星はマシンクリーガーの先遣隊による襲撃を受けている! 非戦闘員はシェルターへ退避せよ! 戦闘可能な者は順次出撃か防衛に回れ!』


「え?」


 頭が真っ白になったまま、怒鳴るように叫んでいる、女のオペレーターの声を聞く。


『繰り返す、これは訓練ではない! これは訓練ではない!!』

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