第8話 マイペースな生徒会長

 競歩でやってきたのは、いかにも年上の男女。

 高校ゆえ、当たり前だが……。


 その中でも、上位にいる風格。


 深層の令嬢をイメージする、長い黒髪と紫の瞳を持つ女子が、先に口を開いた。


「ごめんなさい! あなたが和真かずまくんね? ウチは各科で面倒を見るのが不文律で……。まだ決まっていないから、案内人が空白だったの!」


 上品な仕草で、頭を下げた。


 隣にいる男子も、それにならう。


「待たせて、悪かった! ところで、そちらの女子は誰だ? 俺たちは聞いていないが……」


 困った俺は、隣にいる不審者を見る。


「えーと……。気づいたら、ここにいたと言うか……」


 頭を上げた女子の先輩は、アリスをしげしげと見つめた。


「可愛いわね……。和真くんのご家族か、知り合い?」


 考えてみれば、俺の中学校で会ったものの、名前しか聞いていない。


「いえ! 知り合いと言えば、そうですけど……」


 両手を腰に当てた女子の先輩は、たしなめるように告げる。


「ここは学校だけど、軍事施設です。そこのあなた! 氏名と所属を教えてもらえる? どこの誰か分からないと、私たちが困るの! 申し訳ないけど、その後ですぐに敷地から出てもらいます。……応じない場合は、警備を呼ぶわ。所属先に知られれば、懲罰モノよ?」


 不法侵入と言われたアリスは、息を吐いた。


 まっすぐに見つめ返しつつ、返事をする。


「ボクは、アリスだ……。見学の許可はあるはず。もう一度だけ、確認してくれ」


 怪訝な顔だが、女子の先輩は取り出したデバイスに指を当てる。


 驚いた顔へ。


「あら!? ……ご、ごめんなさいね? アリスさんは、ウチに入学したいの?」


「和真と一緒に見学するためだ! 誰かを呼んで引き離そうとしても、ムダだぞ?」


 その発言に、女子の先輩は困惑した。


 察した男子の先輩が、提案する。


風美香ふみか? とりあえず、落ち着いて話せる場所へ行こう。他の生徒が集まりすぎだ」


 周りを見た女子の先輩は、はあっと息を吐いた。


「そうね……。じゃあ、2人とも来てくれるかしら? お茶ぐらいは出すわ」



 ――PS(パワードスーツ)学園の生徒会室

 

 大企業のオフィスを連想する、快適な執務室。

 奥に役員机があり、壁には椅子とモニターが並ぶ。


 中央のテーブルにある椅子で、俺とアリスが座った。


 上座にある椅子に、男女の先輩。


 風美香と呼ばれた女子が、明るい声で言う。


「先に、注文をして? こちらで費用を持つわ! その端末にあるメニューなら、どれでも」


 座った座席で、空中に画面が出た。

 タッチパネルらしく、指で触れば、上下に動き、拡大縮小。


 俺は、サンドイッチと炭酸飲料。

 隣を見れば、アリスも注文したようだ。


「食堂のほうから自動的に運ばれるわ! では、自己紹介をさせていただきます。SFTA(スペースフォース・トレーニング・アカデミー)の生徒会長である、部隊指揮科2年の風美香です」


「通信科2年のウォーレス。PS競技会のSFTA統括官で、生徒会のメンバーではない」


 それぞれの席で、名前と役職が浮かぶ。


「和真です。御校の見学のため、足を運びました」

「アリス……。彼の付き添いだ」


 電子音が鳴り、それぞれの注文が届いたことを告げる。


 いち早く立ち上がったウォーレスは、気を遣う。


「俺がやる! お前らは客だし、ここを知らんだろ?」


 壁にあるバーを握り、下へ倒す。

 とたんに良い香りが漂い、食欲をそそる。


 礼を言いながら、前に置かれたトレイを見た。



 生徒会長の風美香が、食事のスタートを告げる。


「では、食べながら話しましょう? いただきます」


「今日の恵みに感謝を……」


「いただきます」

「美味そうだね?」


 それぞれの作法で、注文したメニューを口に入れる。


 口の中のものを食べ切った生徒会長が、おずおずと言う。


「えっとね? 和真くんの件だけど……。正直なところ、ウチで歓迎しているとは言いにくいの」


 ウォーレスと一緒に、ジッと俺の様子をうかがう。


 その視線を感じつつ、自分の意見を述べる。


「ええ……。俺も中学の進路発表で、『SFTAへ行ってこい』とだけ言われまして……。こちらで事情を聞こうと思っていました」


 とたんに、生徒会長が息を吐いた。


 リラックスした状態で、話し出す。


「何だ、そうだったの! 私、てっきり政治的な――」

「和真! お前はどうなんだ? ウチに入りたいのか?」


 ボロを出しかけた生徒会長に、ウォーレスが被せた。


 少し考えた俺は、思うままに話す。


「そうですね……。『興味がない』と言ったら、嘘になります。同じ中学でクラスメイトの女子2人は、こちらに進学する予定ですし……」


 悩ましげな表情の生徒会長が、同情する。


「まあ、そうね……。ニューアースの高校は職業訓練校。別のところになれば、二度と会えないケースが珍しくないわ! でも、PSのシミュレーターは動かせるんでしょ? あなたの中学では、どの機体を?」


「今にも分解しそうな『アージェン』でした。実機は、1人8時間も触っていませんけど」


 俺の返事に、2人がうなずいた。


「一般の中学だと、そうよね」

「練習機があるだけ、マシだな……」


 考え込んだ生徒会長は、俺のほうを向いた。


「よし! せっかくPS学園に来たのだから、色々と試していきなさい! ひょっとしたら、何か手掛かりが見つかるかもよ?」


「……お願いします」


 身を乗り出した生徒会長が、興味津々で聞いてくる。


「そ・れ・で! どっちが本命なの?」


「えっと……」


 俺が困っていたら、生徒会長は持論を語り出す。


「私は、キャロリーヌちゃんがオススメね! だって、梨依奈りいなちゃんは愛が重そう。とはいえ、ニコニコしている娘も、本音を出したら――」

「食後で悪いが、その気があればPSのシミュレーターへ行かないか? どっちみち見学だ」


 再び割り込んだウォーレスに、何とか返事をする。


「は、はい……」


 何だかんだで、PS学園を回ることに。

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