第9話 高性能のPSに人間は必要か?

 約2mのパワードスーツ。

 それは、両手両足のパーツに突っ込みながら、背中を受け止めつつ、全身を覆う甲冑だ。


 このニューアースで生存圏を広げたPS(パワードスーツ)は、従来技術とは一線を画す。

 多次元を操ることで、アイテムボックスのような機能もあるのだ。


 実体化させたマシンガンや、ビームライフルによる攻撃。

 場合によっては、短距離ワープも可能。


 他の惑星の重力に負けないパワーと、シールドバリアー。

 周囲を捉えるセンサー類。


 常に被爆し続ける宇宙でも、街のプールと同じだ。

 このニューアースの重力圏から単独で離脱して、理論上は数光年も移動できる。


 思考コントロールと学習機能により、使えば使うほど、その人間に馴染む。

 慣性制御のおかげで、急停止、急加速も思いのまま……。


 かつての地球でPSが1機あれば、小国を1日で灰にできる。

 数機なら、大国ですら機能不全になるだろう。


 最も異常なのは、このハイスペックを活かせるOSだ。

 おそらく、コンピュータ群のAI技術で――


「君は……PSが怖いのか?」


 可愛らしい声。


 そちらを見れば、一緒に見学しているアリスだ。

 艶やかな赤髪と対照的なパープルの瞳が、俺を見つめている。


「そうだな……。PSに人間は必要だろうか?」


 アリスは、何も言わない。


 俺は、PSのシミュレータールームに映し出されている戦闘を見た。


「AIが制御しているのなら、人間がいないほうが性能を発揮できるはずだ」

「……そうかもね」


 同意したアリスは、否定的な声音だ。


「ボクらは見たいんだよ……。常に最適解を求めるだけでは、何も生まれない」


 最初は小さな声で、ギャラリーの歓声に消された。


 俺のほうを見ながら、告げる。


「それに、寂しいじゃないか? 常に効率を求めて、資源やユニットを集めるだけじゃ……」



 大型モニターに、次の対戦相手が映し出される。


“量産機『アージェン』:見学者キャロリーヌ”


 彼女の顔写真を見て、騒ぎ出す面々。


「誰だ?」

「来年に入ってくる新人だってさ!」

「ああ、恒例の……」

「美人なのに優しい雰囲気で、いいじゃないか!」

「誰が相手をする――」


“専用機『ファントム・ブルー』:PS科1年マルティナ(シルバーソード)”


 PS学園に来た時に会った、キャロリーヌを連れて行った女子だ。

 長い銀髪と、エメラルドグリーンの瞳。


 同じ美人系だが、名前通りの青に身を包んだ彼女は、険しい表情だ。

 見たところ、スピード型のPSか?


 去年に入学して、もうシルバーソードと専用機か……。


 いっぽう、キャロリーヌは、オレンジ色に塗装された、いかにもな量産機だ。


 オーソドックスに、実弾のマシンガンと盾。

 ミサイル系も、各所のハードポイントにある。

 弾をばらまいて、接近戦に持ち込む気か?


 ステージは、廃墟となった市街地だ。



『只今より、シルバーソードのマルティナさんと、当アカデミーの見学者の模擬戦を始めます!』


 ビ――ッ!

 

 その瞬間に、マルティナが動いた。

 青い残像を残しつつ、両手で長めのビームライフルを構えての狙撃。


 数発が偏差で飛ぶも、キャロリーヌは危なげなく回避。

 地上のホバー移動をしつつの射撃で、マシンガンの連射音と火線。


 舐めるような弾幕は、相手が廃墟に消えたことで、虚しく外壁を壊すだけ。


 同時に、相手がいると思しき場所へ曲線を描いてのミサイル攻撃を繰り返す。

 使い終わったミサイルポッドは、すぐにパージ。



 どちらも、高度をとらない。

 広い車道や廃ビルの間を縫って、ホバー移動。


 マルティナの顔は、涼しげだ。


 対するキャロリーヌは、必死の形相。

 廃ビル越しに撃たれたビームが、彼女の機体を掠める。


『くうっ!?』


 それでもバランスを取り、射撃したポジションへ制圧射撃。

 撃ちながら、接近する。


 マシンガンは、そのためか?


 相手が遠距離の仕様だと考え、距離を詰めながら――


「ダメだ、キャロ! 誘われている! いったん距離をとれ! 視界がある場所まで後退しつつ、武装を切り替えろ!」


 思わず叫んだことで、周囲が注目した。


 けれど、大型モニターから目を離せない。



 初めて、マルティナが高度をとった。

 比べ物にならないスピードで、急降下。


 青い機体はライフルを捨て、代わりのように青いビームが伸びる。

 接近戦のビームソードだ。


 キャロリーヌは上空を見ながら、マシンガンの連射を上へ向けるも――


 ガチッ


『弾切れ? くっ!』


 それが勝負の分かれ目だった。


 反射的にマガジン交換を始めたキャロリーヌは、足が止まった。

 青いビームソードに切り捨てられ、爆発する武器を手放す。


 全力で後退するも、機体の性能差によって、あっという間に二撃目へ。

 かざしたシールドは、真っ二つに。


 もはや姿勢が崩れている『アージェン』と、苦しそうなキャロリーヌの顔。


 接近戦用のビームソードを抜くも――


 三撃目で切り捨てられ、爆散……の演出。


 ビ――ッ!


『勝者、マルティナ! シミュレーションを終わります』



「ま、中学生だし……」

「筋は悪くなかった」


 好き勝手に騒ぐギャラリーに、俺は嘆息した。


 分かっていたが、圧倒的な差だ。

 これじゃ、俺が入っても、肩身が狭いというレベルでは……。



 生徒会室から付き添っている男子、通信科2年のウォーレスが、気を遣う。


「無理にやらなくても、いいんだぞ? それに、あいつはシルバーソードだ! 注目されるのが嫌なら、個別でシミュレーションに付き合ってやる――」

「統括官! そちらの見学者に、用があるのですが……」


 俺たちは、振り向いた。


 会釈をした女子は、端的に告げる。


「マルティナ様が、そちらの方との対戦を希望しています」


 ウォーレスは、理解不能と言いたげな表情で、問い返す。


「今すぐか?」

「はい。別で準備をする必要がないから、と申しています」


 返事に困ったウォーレスは、俺のほうを見た。


「理由は何ですか?」

「知りません」


 にべもなく、答えられた。


 息を吐いた俺は、観戦ルームの全員に見つめられたまま、返事をする。


「分かりました。よろしくお願いいたします……」


 たぶん、二度と足を踏み入れない場所だろう。

 記念受験よろしく、シルバーソードと戦っておくか……。

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