第7話 可能性ゼロの男子はお断り!

 ――SFTA(スペースフォース・トレーニング・アカデミー)の生徒会室


「えっ!? PS(パワードスーツ)適性ゼロの子が、うちに来るの?」


 報告を受けた生徒会長は、素っ頓狂な声を上げた。


 その女子は咳払いのあとで、言い直す。


「どういう事?」


「は、はい! えっと……。中学校のシミュレーターで、ヘビーキャルの最高スコアを更新したようで……」


 両肘をついた生徒会長は、両手に顎をのせて、ジト目に。


「キャルの記録更新で、なぜウチに? そっちへ行けば、いいじゃない! 全く扱っていないウチに来られても迷惑よ、大迷惑!!」


「わ、私に言われても……」


 報告中の女子は、困っている。


 見かねた男子が、口を挟む。


「そこまでにしておけ! どうやら、コンピュータ群の推薦でな?」


 オーバーにため息を吐いた生徒会長は、肩をすくめた。


「まーた、それ? 議論の余地がないじゃない! 移民船団から地上へ移ったのだし、いい加減に……ハイハイ、黙ります!」


 話していた男子の非難がましい視線を受け、生徒会長は口を閉じた。


 代わりに、止めた男子がリードする。


「その和真かずまの見学は、俺たちの都合では止められん! さりとて、ここはPSのためにある……。彼の入学を許せば、誰のためにもならんだろう」


 その意図を理解した生徒会長が、明るい声で言う。


「見学中に説得するのね? ウチに入ったら、タダじゃおかないぞーって!」


 息を吐いた男子は、腕を組みつつ、言い返す。


「コンピュータ群の推薦だぞ? 気をつけろ……。部外者がウチを見学できる機会は少ない。歓待はするが、今のうちに腕試しをするのも良いだろう」


「え? 適性ゼロと知っていて、PSを使わせるの!? それはちょっと……」


 生徒会長のツッコミに、男子が呆れつつも答える。


「違う! PSのシミュレーターは動かせるから、それで戦わせる」


 手元の端末を触った生徒会長は、驚く。


「シミュレーターは使えるのに、実機はダメなの!? そんな事例が……」


「ああ……。データによれば、全く反応しないようだ」


 生徒会室にいる全員が、押し黙った。


 けれど、このままでは、和真が入学してしまう。


 生徒会長と呼ばれていた女子は、決断する。


「PSのシミュレーターが使えるのなら、彼に戦ってもらいましょう! どうするにせよ、見極めないと……」


 チラッと見るも、その先にいる女子は立ち上がった。


「わたくしはお断りですわ! 栄えあるシルバーソードがそのような年下をいたぶるなど、言語道断! 他の方に頼んでくださいまし」


 言い捨てた後で、胸や腕の横にシルバーソードを輝かせる女子は出ていった。


 しょげた生徒会長は、ハーッと息を吐く。


「うーん……。あの子なら、和真くんをボコボコにしても恨まれないかなあと思ったのに」


 呆れた男子が、指摘する。


「そういうとこだぞ?」



 ◇



 SFTAに到着した。

 高級車の後部から降りる。


 中学生3人のわりに、VIP待遇だ。


 軍事施設だが、ゆるい雰囲気。

 1つの街となっていて、学生寮や食堂などの案内版も……。


 ニューアースの未来を背負っているだけあり、どこも清潔で新しい。



 制服を着た女子が数人、やってきた。


「あなたが、梨依奈りいなさんね? PS研究開発科よ! ウチはいくつかのセクションに分かれているけど、他と比べて横の連携がしっかりしているから、ぜひ見てちょうだい!」


「はい……」


 チラッと俺のほうを見た梨依奈。


 首肯したら、女の先輩についていった。



「あなたが、キャロリーヌさん?」


「はい! えっと……」


 戸惑うキャロリーヌ。


 その相手を見れば、制服の目立つ部分にシルバーソードの印。

 PS学園で上位にいる、エースの1人だ。


 俺のほうを見た女子は、息を吐いた。


「あなたにも自己紹介や案内をするべきですが……。わたくしはPS科の先輩として、来年度に入学するキャロリーヌさんを担当します。じきに、あなたの担当者も来ると思いますので。失礼します……。行きますわよ?」


「は、はい……。じゃあ、お先に」


 チラチラと俺を見ながら、キャロリーヌも去っていく。



 彼らの後ろ姿を見送りつつ、ため息を吐いた。


「どーせ、こんな事だと思ったよ!?」


 周りを見れば、遠巻きに見ている生徒がいるぐらい。

 誰も、俺に近づこうとせず。


 要するに、関わりたくないわけだ……。


「科が表示されていない時点で、バグか何かだろ? はー! ここまでハブられるのなら、ヘビーキャルの高校を見学しておけば良かった。つーか、もう帰りたい」


 言われた通り、SFTAには来たんだ。

 こんな嫌がらせをされてまで、留まる必要はない。


 その時に、女子の声が耳を打つ。


「君がそんなに男好きだったとは、驚きだ! 女は嫌いか? どこを触っても柔らかいし、奥深いぞ?」


「人聞きが悪いことを言うな! PS学園は、俺に来て欲しくないから無視しているのだろう?」


 言い返しつつ、そちらを向く。


 いつぞやに見かけたアリスだ。


「お前、ここの生徒か? ……ってか、先輩!?」


「ある意味ではそうだが……。ボクは、SFTAの生徒ではない。教職員というオチもないぞ? 安心したまえ」


 童顔のアリスは、のんびりした口調で言い切った。


 言われてみれば、PS学園の制服ではない。



 落ち着いているアリスは、違う方向を見た。


「さて……。そろそろ、君を案内する役を押し付け合った結果が出る」


 釣られて見れば、男女2人の生徒がこちらへ向かっていた。

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