第4話 和真くん? 重いキャルちゃんに乗りなさい!

 ヘビーキャル。


 『重いキャルちゃん』ではなく、重装騎兵を意味するヘビーキャバルリィの略だ。

 かつての月面コロニーで人類を守った立役者。


 全高15mの巨大ロボットだ。

 ビーム兵器を実装していて、SFアニメで活躍しそう。


 しかし、宇宙から襲ってきた小型ロボットには敵わず。


 わずか2mとなれば、動き続けるバスケットボールを狙うに等しい。

 数の暴力もあって、宇宙を駆ける騎士は次々に力尽きた。



 クラスメイトで、その美貌でも注目されている女子2人。

 梨依奈りいなとキャロリーヌに拒絶された武志たけしは、怒り心頭に発していた。


 その原因になった和真かずまを逆恨み。


「あいつううううっ! ゼロの癖に! ゼロの癖に!」


 その友人たちは、呆れている。


「どうせ、将来は古い宇宙ステーションで哨戒任務だぜ?」

「そうそう! 旧式のヘビーキャルが上手くても、意味ない」

「PS(パワードスーツ)を使えなきゃ、石器時代と変わらん」

 

 とはいえ、友人だ。

 

 適当にご機嫌をとり、別れた。



 1人になった武志は、キャロリーヌを思い出す。


「キャロは優しいから……。移民船団でオリジナルが恋人同士だから、変な使命感を持っていて……」


 言いながら、自分に信じ込ませていく。


「ハハッ! そうだよ! きっと、そうだ!」


 ネットワークから、1つのプログラムを入手する。


「これさえ、あれば……」



 ◇



「は? キャロを賭けて、ヘビーキャルのシミュで決闘しろ?」


「そうだ! 俺が勝ったら、お前は身を引け!」


 鼻息荒い武志に、俺とキャロリーヌは顔を見合わせた。


「いきなり言われてもなあ……」

「私、モノじゃないんですけど」


 あれ?

 俺の彼女という点は、否定しないんだな?


「面白そうじゃないか! ボクが立ち会うから、やってみなよ?」


 いきなり、女子がいた。

 柔らかい輝きの赤髪は長く、紫の瞳だ。

 童顔のわりに身長があり、その雰囲気から年上っぽい。


 俺たちが戸惑っていたら、彼女は微笑んだ。


「ボクは、アリス……。そう呼びたまえ」




 ――シミュレーションルーム


 ヘビーキャルの操縦席を模した球体に、滑り込んだ。


 中のシートに座れば、各種モニターや左右のスティック、下のフットバーが所定の位置へ。

 同時に、正面のハッチも閉じる。


 外の景色に見せかけた、戦闘用のフィールドへ……。


『聞こえるか、和真?』

「何だ?」


『お前、いい加減にしろよ? いつもいつも、キャロと一緒にいて!』

「本人に言え!」


 辟易していたら、武志が叫ぶ。


『俺が勝ったら、もうキャロに近づかず、スマホの連絡先も消せ!』


「あのなあ? だいたい、キャロと呼ぶ許可だって――」

『うるさい、うるさい! うるさ――い!』


 駄々をこねた奴は、一方的にシミュレーションを選択。


 “月面コロニー脱出”


 英雄が命を落とした、例のミッションだ……。


『お前にピッタリだろ? ふんっ! これで負ければ、てめーは言い訳できねえ! 勝負の内容は、このステージでより多くの敵を倒したほうだ』


珠音たまね博士の救出は、含まないんだな? お前が負けたら、どうするつもりだ?」


 通信用のモニターで、にやりと笑った武志は、大口をたたく。


『ハッ! 俺が負けるわけねーよ!? そうなったら、二度とキャロに会えず、通信できなくてもいいぜ! 代わりに、てめーも約束を守れよ?』


 狭いコックピットに座ったまま、肩をすくめた。


「お前が勝ってから、ほざけ」


 激怒した武志は何も言わず、通信を切った。



 俺は当然のように、シルバー・ブレイズを選ぶ。

 ビームライフルで射撃戦。


 対戦相手の武志も、同じだ。

 2Pカラーで違う配色に。


 このシミュレーションでは、参加している機体が表示される。


「珍しいな? あいつ、ヘビーキャルは苦手のはずだが……」


 嫌な予感がしたものの、出撃シーケンスが進み、オペレーターの口上。


『頑張ってください!』


 カタパルト要員が、光る棒を前へ振った。


 次の瞬間に、後ろへ押しつけられるG。


 ゲーセンで金をとれば、流行りそうだ!



 視界は、宇宙と月面に……。


 両手両足の動きで、シミュレーターも動く。


 俺が見ている範囲と、その振動では、本物のようだ。


「まずは、適当に漁るか……」


 フットバーを蹴り込み、一気に加速。


 激突するようにすれ違いつつ、ビームライフルで撃ち落としていく。


 暗い宇宙に、2mぐらいの機械ロボットの爆発が彩る。


「およ?」


 武志の様子を見れば、かなり鋭い動きで、ヒット&アウェイを繰り返す。


「……おかしくないか? あっぶ!」


 ビームサーベルで斬りかかってきたマシンクリーガーを避けつつ、逆にビームサーベルで切り捨てた。


 連携らしく、その陰から左右に分かれての射撃。

 移動によって外れ、俺のライフルによる撃墜へ。


 かつての英雄が死んだように、絶望的な物量差。

 けれど、何度もやり込んだ。



「今のところは……互角か! 言うだけ、あるな?」


 イキり武志は、奴なりに努力していたようだ。


 得意分野で負けじと、俺も機体のスピードを上げる。

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