第4話

「フフフ……フゥーーーーハハハハッ!!!」


部屋中に響き渡る不気味な笑い声とともに、古ぼけた魔導書が宙に浮かび上がっていく。

魔導書から放たれた赤い閃光が周囲を照らすと同時に、2メートルはあろうかと思われる大男が姿を現した。


「ようやく自由になれたわ………貴様のお陰でな」


水牛のような太い角、背中の中頃までの長い黒髪、青白い肌に血の塊の様な瞳。

全身から禍々しいオーラを放ちながら、ベッドの上に立った男はゆっくりと美琴を見下ろす。


「まさか魔導書にこんな仕掛けがあったとは………不覚であった」




<勇者マリィの冒険>………今年度最悪と評される深夜アニメ。

毎回女勇者が悪魔達の罠にはまりピンチに陥るという、ツッコミどころ満載のストーリー。

しかし、勇者マリィが挫けず何度でも立ち上がる姿に美琴は憧れ…いや、ある種の救いを求めていた。


魔導書から魔王が現れた瞬間、先程の愚行……『偉大なる魔王よ!』……自分の声が脳裏に浮かぶ。

再び恥ずかしさと苛立ちで、美琴は床に転がっていたお気に入りのクッションに顔を埋める。



ピンポーーン………ピピピピピピンポーーン…!!


マンションの呼び鈴が何度も鳴り、ドアを激しく叩く音が聞こえる。

美琴はアニメを止め、慌ててドアに向かう。

ドアガードを掛けたまま、恐る恐る鍵を開けてドアノブを掴んでドアを開いた。


ガンッ…!


ドアガード一杯までドアが開かれ激しい音を立てる。

ビクッと美琴は体を揺らし、ドアの隙間から、隣に住むチンピラ風の若い男から離れる様に半歩、後ろへ身を引いた。

男は眉間に皺を寄せながら、鋭い目つきで美琴を睨んでいる。


「夜中に壁ドンしてんじゃねぇよ!!つかテレビうっせーんだよ!!!」


壁に古書を投げつけた事を思い出し、自分の情けなさに気が遠くなった。



「オイ、聞いてんのかよ!?…つか、ここ開けろよ!!」



ガンッ…ガンガンッ!!



激しい口調で捲し立てながら何度もドアを引く男の姿に我に返る美琴。

け、警察……電話……とパニックになり掛けた瞬間、男は目を見開き…みるみる内に顔が真っ青になっていく。


「……ア……ヒッ………バッ…化け…モノゥァアアアア!!!」


男は謎の奇声を発しながら後ずさりし、自分の部屋を通り過ぎて階段を転がる様に駆け下りていった。


ふと背後に何かの気配を感じる美琴。


「人間というものは……」


低い男の声が頭上から響く。



「二千年経っても相変わらず…恐怖に怯える愚かな生き物よ…」



美琴は、その低く冷たい声に身体を震わせながら振り向いた。

見知らぬ黒髪の男…短い無精髭……二本の角…………そして何故か…はっ…裸………!?


美琴を見下ろすその瞳は、先程まで見ていたアニメの魔王の様に紅く光っていた。

あまりの異形さに恐怖を感じ、視線を下に逸らす。



しかし、視線の先、丁度彼の腰あたりには…………漆黒の棒…いや……肉の……塊……?



その黒い塊が天に向かいそそり立っている様子は、未だ処女の身である美琴の気を失わせるに充分な衝撃だった。

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