第3話

古書を手に取り、まじまじと見つめている。


——あの後、小さめのバッグの中に無理やりそれを詰め込み、半ば呆然としながら一人暮らしのマンションに帰宅した。

さっさとお風呂に入って今日のあれやこれやを洗い流し…

買い置きのカップラーメンで食事を済ませて部屋にこもっているのだが。


「何なの?これ…」


ずっしりとした重み、丁寧な作り。

革の表紙は触り心地が良く、つい表面を指で撫でたくなる。

如何にも「ザ・魔導書」のオーラを放ったその本は、それでもさっぱり意味が分からない代物だった。


…ま、いいか。

美琴はそう結論づけ、それを傍らに置いてテレビを付けた。



正直テレビはつまらない。

それでも何となく付けるのは、自分がこの世で同じ時間を過ごしているという確認の様なものだった。

アニメに没頭していれば楽しいけれど、その反面無性に寂しさが襲ってくる。

こうして自分を現実に繋ぎ止める行為は、その虚しさを僅かながら和らげるのだ。


「………」


とは言え、その内容によっては美琴の心に盛大にダメージを与えてくる事もある。



『ホントは、知ってるんだ。君の眼鏡の下の瞳は、とっても輝いているってことを』


『龍二さん…』


テレビの中の二人は見つめ合い、男性は女性の眼鏡を外していく。

二人の距離が縮まっていく、そして……



「………そんな訳、無いじゃん」


眼鏡の下の瞳が輝いているのは、今一番乗りに乗っている女優だから。

こんな風に男性に言われるのは、それが作り話だから。



傍らに置いていた本を手に取る。


―どうしても我慢できなくなったら、その星に手を置いてこう唱えなされ。


「我の願いを叶えんがため…その姿を現せ、偉大なる魔王よ!」



……



………



何も、起きなかった。

猛烈な恥ずかしさが襲ってきて、顔が熱くなる。



「馬鹿みたい…こんなもんっ」


投げつけた本は壁にぶつかり、どさりとベッドの上に落ちた。

それに背を向けて、リモコンをテレビに向けて操作した。

録画していた深夜のアニメが流れ始める。

投げ捨てた本から禍々しい気配が流れ出ている事に、美琴は気づきもしなかった。

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