第5話

「……ん。ここは…?」


目を開けた。

玄関の、小さなライトが目に入る。


玄関…?

私は、玄関で寝ていたんだろうか…


むくりと起き上がる。

間違いなく美琴は玄関で寝ていた。


記憶を遡る。

アニメを観ていたら、隣の稲垣さんが怒鳴り込んで来たんだ。

恐怖におののき、警察を呼ぼうとした時彼は、何やら怯えた様子で逃げ出して行ったんだった。


「えっと…」


そこまで思い出して急に恐怖が襲って来た。

彼は、何と言って逃げた?



『バケ……モノ……』?


…考えてもそれが何を意味しているのか分からない。

けれどその後、美琴は確かに見た。

男の姿。

大きくて、裸で、頭には…角……。


バケモノ……、化け物。

ゾッとする。

後ろを振り返って見るがそこには誰の姿も無い。

いつもと変わらない、灯りのついたリビング。

テレビの電源は入っている様だが…画面は動いている様子がない。


稲垣さんにびびって、失神したんだろうか…

だとしたら情けない。

仕事で疲弊し隣人に怒鳴り込まれ失神。

なんという、惨めな一日だったんだろうか。


美琴の頭の片隅にはまだ大男の朧げな姿が残っていた。

しかしそれはあまりに非現実的だった。

きっと自分は疲れていて、テレビから魔王が出てくる様な妄想を描き…挙げ句の果て玄関で倒れて今に至るのだ、と思い込む。


ため息をつきながらふらりと立ち上がり、まだテレビがつきっぱなしの部屋へと足を向ける。

少しずつ部屋の中のものが見えてくる。

テレビと、小さなテーブル、そしてベッド…



……ベッドの上に、何か、居る……!!?



ガタン!


後退りすると、部屋の半開きの引き戸に体がぶつかる。

鮮明に思い出す光景。

裸の大男、異形の姿、そして、黒々とした………?



「ぎやああああああああ!」


とても二十五歳の娘が上げたとは思えない声を上げて、玄関のドアを目指した。


早く、逃げなければ!!


ドアロックを外そうとするのに上手くいかない。

震える手で、やっとロックを外す。

二つついている鍵を、あとは捻るだけなのに、指先がガタガタと震え、うまく掴めない。


そんな美琴の背後から、禍々しい空気を纏ったその人物は、近付いてくる。

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