第25話 何か事情がおありでしょうか
シエロを一人で前線に行かせる訳にはいかない。
ネーヴェは、自分も付いていくと主張した。
「天使と国王が共に前線に出るのは……と言っても、無駄そうだな」
「今更ですわね」
額に手を当てて、シエロは悩ましそうにしている。
理屈の上では、王と天使が同時に戦場に出るのはよろしくないと分かっている。ただ、二人ともフォレスタを離れて帝国まで来てしまっている現状では、離れて行動する方がリスクがあるように思える。
ネーヴェは彼の前に、こっそり持ってきた武器を置いた。
「前にグリンカムビ様に、素敵な弓を頂きました。フレースヴェルグもこれで射落としてやりますわ」
以前の戦いで窮地に陥った時、金の巨大鶏グリンカムビが謎の神々しい弓を召喚し、ネーヴェに渡していた。受け取ってすぐは
以来、護身用に持ち歩いているのだ。
「これ、ミストルティンじゃないか」
横から、ぴょこんとリエルが飛び出し、弓をのぞきこんだ。
「ミストル……なんですか?」
「兄さま、こんな怖いもの人間に持たせていいの」
「ネーヴェだからな……」
シエロは、諦めたようだ。
「俺から離れるなよ。勝手に別行動するな」
「その言葉、そっくりシエロ様に返しますわ」
話はまとまった。
しかし、ニーノの実家から追加のライムストーンを仕入れる約束をまだ果たしていない。そこで、可能なら数日待って、岩を受け取ってから出発しようということになった。
追加の岩は、実は最初の手紙の時点で送るように指示していた。最初の三つだけでは不安だったからだ。時間差で、そろそろ届く予定だった。
数日後。
岩を持って現れたのは、フォレスタの商人ではなく、シエロの従者テオだった。
「目的地が一緒だったので、私が代わりに持ってきました」
「よくやった、テオ」
テオは、目付きの鋭い黒髪の男だ。
天使であるシエロのお目付け役で、護衛兼従者だという。もとは神海から派遣された天使の監視者で、今回シエロがネーヴェを連れて神海を渡るにあたり、テオの助力が必要ということだった。
テオは「どうして女王陛下も一緒にいらっしゃるのですか」とネーヴェを見て呆れた顔になった。
「おひとりで旅に出られたかと思っていましたが」
「……」
テオに責められるように見つめられ、シエロが気まずそうに視線を逸らす。
「まさか、衝動的に女王陛下と一緒に来たとか、おっしゃらないでしょうね?!」
「……説教は後でいくらでも聞く。それより先に、帝国を襲う蛮族と魔物の撃退に協力することになった」
シエロは、やけに真剣な顔で、テオと向かい合う。
「敵の
「!!」
その瞬間、テオが無表情になった。
従者の様子をうかがうような態度をにじませ、シエロは続ける。
「俺に協力して、フレースヴェルグを討てるか?」
「……もちろんです。ぜひ、協力させてください」
地を這うような低い声音でテオが答える。
彼は何か、フレースヴェルグと因縁があるのだろうか。
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