邪竜討伐
第24話 帝国の窮地
帝国の天使リエルは、居候になった。
大工仕事が得意なシエロが、弟天使のため簡易ベッドを作ったせいだ。
実は、兄弟は同じ部屋で寝たことはなかったらしい。天使は教会の御神体に等しい存在で、下にも置けぬ扱いを受けている。王侯貴族と同じような暮らしをしているようだ。帝国の高位司祭たちが、義理の兄弟を同じ部屋で寝かせるようなことはしなかっただろう事は想像が付く。
生まれて初めての、お泊まり会。ネーヴェが用意する温かい食事や、甘い菓子に、リエルは夢中になった。
「リエル様、聖堂に戻って下さい」
「嫌だ。僕は兄さまと一緒にいる!」
迎えに来た司祭が困っている。
「すみません、世話係をこちらに滞在させても良いでしょうか」
「構いませんよ。もともと、ここは修道院で、あなたがたの建物です。私たちは、お借りしているだけですし」
崖の上の修道院には、部屋が沢山あった。
ネーヴェは、リエルの世話係の滞在を許可する。
こうして、崖の上の修道院には、シオタの街の住民だけでなく、帝国の天使リエルに助言を求める司祭たちが通ってくるようになった。
居着いて数日後。テラス席でふんぞり返って我が物顔で菓子をむさぼるリエルの元へ、遣いの司祭が悪い知らせを持ってきた。
「ジブリール様が、敵に捕らえられたとの情報が」
「!!」
リエルの手から、菓子がぽろっと落ちた。
本日の菓子は、ビターアーモンドを使った、まんまるのアマレッティだ。
リエルは落ちた菓子を気にする余裕もないらしく、司祭に向けて叫んだ。
「ゼラクは何をしてたんだ!」
「ゼラキエル様は、邪竜ニーズヘッグと交戦し、負傷されたとのことです。ヴィエナの都は蛮族によって焼き払われ、帝国騎士は撤退を余儀なくされました」
「……」
私が聞いても良いのかしら、と思いながらネーヴェは給仕に徹する。シエロが「すまないな」とリエルの代わりに小声で謝ってきた。帝国の機密事項のはずだが、よっぽど司祭も気が動転しているらしい。
「邪竜ニーズヘッグ、か。人間が扱えるような魔物ではないはずだが」
シエロが訝しそうに問う。
それに、悔しそうな顔をしたリエルが答える。
「嫌な予感はしていたんだ。兄さまの手を借りず、ゼラクだけで勝てれば良いと思ってた。けど、そうもいかなくなった」
「……」
「敵は、東から攻めてきた
ネーヴェは驚かなかった。
鳥たちを使って、戦争の状況を調べていたからだ。
やはり、以前に出会った黒翼の天使フレースヴェルグが、敵の大将らしい。不死の軍団を生み出していた紫水晶の塔を思い出す。
「前にフォレスタの北部を襲撃された時は、邪竜などいなかったですわ」
つい口を挟んでしまったが、リエルは怒らなかった。
「女王の癖に知らないのか。兄さまは竜殺しの天使だぞ。フレースヴェルグは、帝国と戦う前に、邪竜を兄さまに倒されることを警戒したに違いない」
「シエロ様は、有名な天使なのですね」
「そうだ。兄さまのような天使が守護する国に生まれたことを、幸運に思うがいい!」
ものすごい兄自慢に、シエロが虚ろな目になっている。
しかし、これで緊張していた空気がほぐれた。
リエルはひとしきり自慢した後、我に返る。そして急に殊勝な態度になり、シエロを見上げた。
「僕を助けてくれるよね、兄さま……?」
その言葉に、シエロも真剣な表情になる。
「もちろん。フォレスタにも攻撃を仕掛けてきたからな、放っておく理由はない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます