第17話 石鹸作りのために!
ネーヴェが恐れていた事態が起こった。
シオタの街の住民が、修道院が復活したと喜び、相談事を持ってくるようになったのだ。自分たちは天翼教会の許可を得て、仮住まいしているだけだと伝えても、次から次へと新しい住民がやってくる。
「ネル様、お客様です」
フルヴィアが申し訳なさそうに呼びに来る。
門前に並ぶシオタの住民の、期待に満ちた視線を受け、ネーヴェは仕方ないと腹をくくった。
「こうなったら、開き直って、修道院をやりましょう!」
騎士たちに指示して、門前に並ぶ住民の交通整理をさせる。
シエロと手分けをして、住民の悩み事を聞いた。
「最近、夜眠れなくて」
「こちらのカモミールを煎じた茶を服用するようにしてください」
中庭に生えている薬草を渡す。
「お代は要りませんわ。石鹸作りについて、有益な情報があれば教えてくださいませ」
石鹸作りの職人に会いに行くつもりが、忙しくて会いにいけない。
それならば、やってくる住民から情報を得ようと、ネーヴェは考えを変えた。情報が向こうから集まってくると考えれば、相談窓口の仕事も悪くない。
「処方していただいた薬、すごくよく効きました! うちの石鹸でよろしければ、どうぞ!」
「私の家では、紫海藻の灰を使って固めてるんですよ」
「塩を入れて固めると、体に良い……気がする」
ネーヴェは住民から聞き取った情報をメモした。
「情報は集まりましたが、やはり海藻の灰しか材料になりえないのでしょうか。フォレスタで石鹸を作るためには、海藻以外の材料を見つけないといけませんのに」
庭に植わっているハーブに詳しくなったが、肝心の石鹸作りの研究が進んでいない。
打開策は無いか考えながら、住民の悩みを聞いていた、ある日。
住民たちの噂を聞いた。
「港に、軍団長の船が立ち寄るそうだぞ」
「こんな小さな港街に、何をしに来たんだ」
シオタの街は、騒然となっている。
田舎の港にそぐわない、立派な大型帆船が停泊したからだ。
ネーヴェは嫌な予感を覚えた。
その予感は、すぐ現実のものとなった。
「シオタの若者は、港で軍船の清掃をするように! それが終わったら、北部に行ってもらう。帝国の栄光のために働くのだ!」
帆船の前で、帝国の軍人が命令を下す。
シオタの街の住民は、困惑している。
「働き盛りの男は、徴兵されていないのに、この上、若者まで連れて行かれたら……」
「このままじゃ、秋の石鹸作りもできなくなっちゃうわ」
ネーヴェは、その嘆きを聞いて決心した。
「石鹸作りのために、ここは一肌脱ぎましょう」
帝国が抜かれたら次はフォレスタだ。帝国を勝たせる……とまではいかないまでも、シオタの民が困らない程度に頑張ってもらわなければ。
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