第14話 シリアスが台無しですわ

「そうだな」

 

 手を繋いだまま、しっかり視線を合わせ、シエロはネーヴェの問いに答える。


「国の安寧だけを考えるなら、お前をラニエリあたりに添わせれば良い。そうすれば初代王家の血も繋がるし、丸く収まる。そうしてお前の子孫を未来永劫見守っていくことが、天使として為すべきことだ……しかし」

 

 彼は何かの痛みを耐えるように、眉をひそめた。


「それだけは我慢できないと思う俺がいる。民の幸福のためにある天使が、自分の幸福を優先するなど本来あってはならない事だというのに」

「シエロ様は、人間ですわ」

 

 たまらず、ネーヴェは口を挟んだ。

 

「私には、あなたは、普通より大きな責任と力を負っただけの人に見えます」

 

 そう伝えると、シエロの眉間のしわがゆるんだ。


「……きっと、お前は正しい、ネーヴェ。だから俺は、お前と共に生きたいと思うのだろう。……お前はどうだ?」

「嫌いな殿方と、二人きりになったりしませんわ」

 

 問い返され、ネーヴェは視線を逸らしツンと顎をそびやかす。

 我ながら素直ではない。

 しかし、見抜いているシエロは機嫌良さそうに喉で笑う。


「お前は自分の面倒は自分でみると言ったが、俺を選ぶなら、そこまで苦労させるつもりはない。これでも年だけは食っているんだ。なんとでもなるし、なんとでもする」

「具体的には、どのように?」

「花祭りの王の宣誓について、俺に考えがある。聞くか」

 

 本当に、この方は天使様なのだろうか。神聖というより、腹黒い笑みを浮かべるシエロを見つめて、ネーヴェは思う。

 シエロの考えとやらを聞こうとした、その時。

 


 コケコッコーーッ!!



 見つめ合う二人の背後から、ものすごい音量の、ニワトリの鳴き声が響き渡った。

 シリアスが台無しだ。

 

『いやだ~~~っ、殺される~~~っ!』

 

 若い男の泣き叫ぶ声がした。

 殺されるとは穏やかではない。

 ネーヴェは声の主を探して見回す。

 すると、こちらに向かって猛烈な勢いで走ってくる雄鶏の姿が目に入った。


『助けてくれ~~!!』

 

 声の主が雄鶏だと悟り、ネーヴェは混乱する。

 ニワトリが喋っている……?

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