第71話 本気で仰っているのですか
視線を受けたエミリオは、困惑している。
シエロは続けて驚くべきことを言った。
「古城で、囚われた民を助けたそうだな。王子が単身、古城に乗り込んで民を助けたと噂になっているぞ」
民衆は英雄伝を好む。エミリオの無鉄砲な行動も、美談として受け入れられているようだ。これは本人にとっても、周囲にとっても、予想外の結果だった。
「……いえ。私は、もう地位に固執することはありません」
「ほう?」
「王位継承権をはく奪された時に、思い知りました。自分が薄氷の上にいたことを。王位は絶対ではなく、周囲の思惑によって簡単に取り外しできてしまう程度のものだと……もう、そのようなものに振り回されたくありません」
エミリオは神妙な顔つきで言う。
王位継承権はく奪が、かなりショックだったようだ。
確かに、簡単にはく奪されて、簡単に元に戻してやると言われたら、エミリオでなくても「ふざけるな」と怒るだろう。
軽薄な提案をした天使様は、エミリオの返答を予期していたような顔だ。この回答も織り込み済みらしい。エミリオの更正が目的だったとすれば、なんとも荒っぽいやり方だ。
「なるほど。では最後に、サボル侯の娘。お前は、どうする?」
シエロは頷き、視線をアイーダに移した。
その視線を受け、アイーダは挑戦的に微笑む。
「私は次期王位継承者として、お姉さま―――氷薔薇姫ネーヴェを推薦いたしますわ」
「!!」
ネーヴェは額を押さえて呻いた。
ここに連れて来られた時点で、もしかしたら、と思っていた。
「アイーダ、あなたの気持ちは嬉しいけれど、他の方が賛成しないと思いますわ。私は辞退」
「俺は賛成するぜ」
意外なところから、声が上がった。
フェラーラ侯グラートが、なぜか目を輝かせている。
「天辺が男より、女王の方が、仕える側としてテンションが上がる!」
「えぇ……?!」
思い切り趣味に寄った発言に、ネーヴェは思わずつぶれた蛙のような声を上げてしまった。
「私も賛成です」
「ラニエリ?!」
国王が驚いてラニエリを見る。
ラニエリは前を向いたまま、澄ました顔で続けた。
「ネーヴェ姫が嫌がっているので、ぜひ推薦したいと思います」
「ラニエリ、そなた、マントヴァ公爵家の罪を軽減してやった恩を忘れたか」
国王は脅迫のようなことを言って、ラニエリを睨む。
先日ラニエリは父親の罪を告発したが、フォレスタ国土に災厄をもたらした魔術師をかくまった罪は重い。一族郎党、家名や財産を取り上げられて追放されてもおかしくなかったが、今のところマントヴァ公の失脚といくつかの領地没収だけで済んでいる。それは国王がラニエリの働きを評価し、擁護したからだ。
しかし、その恩を盾にラニエリを操り、国王エルネストは王位をフォレスタ公の血筋に固定しようとしている。
「エルネストよ。弟に罪をなすりつけるのも大概にしろ。元はと言えば、お前が宮廷に魔術師を
シエロが鋭く割って入った。
尊大な声音には、百年以上この国に君臨してきた天使としての威厳がこもっている。
「お前に許されているのは、次期王位継承者を誰にするか、一票を投じる権利だけだ」
「……承知しました」
国王は言い返すこともなく、うなだれて首肯した。
ネーヴェは、彼らの顔を見まわして愕然とする。
三大貴族の筆頭が、ネーヴェを王にすることに賛成してしまった。とても信じられない。これは現実なのだろうか。
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