第31話 実りの秋

 実りの秋がやってきた。

 あっという間だったと、ネーヴェは思う。旅館経営もしていたので、時は飛ぶように過ぎ去った。毎日が忙しくて、新鮮な発見に満ちていた。

 シエロの長髪を散髪しようとして怒られたり、カルメラの皮鎧を修繕して感謝されたり。

 語ればキリがないので、この辺にしておこう。

 ともかく、ネーヴェの活動はやっと、リグリス州からの魔物駆逐という成果を上げつつある。


「オリーブ農家の様子を見てきたよ。昨年よりも少ないが、何とか出荷できるだけのオリーブが実ったそうだ! 例の虫の魔物も、貝殻の粉を撒いたら現れなくなったそうだぞ」

「確認ありがとうございます、アントニオさん」

「礼は、こちらが言わなければならん。姫さんのおかげで、リグリス州のオリーブは守られた。ついでに俺たちの商売も守られた!」

 

 商人アントニオは、上機嫌だ。

 彼はネーヴェの希望に応え、追加で貝殻の粉を仕入れるためオセアーノに行ったり、旅館用の氷を山から持ってきてくれたりした。彼の出費は、アイーダから前借りした資金からまかなった。

 夏の間、旅館で儲けた利益は全て、アントニオやアイーダへの支払いに当てている。ネーヴェの手元に残った金は僅かだった。


「アントニオさん、オリーブの実を仕入れたら、私にも少し売って下さいますか」

「いや、姫さんから金は取らんよ。姫さんの料理は絶品だからなぁ。オリーブから何を作るんだい?」

 

 アントニオが聞いてくる。

 氷を運んできてくれた礼に、レモンソルベを振る舞ったら、彼はすっかりネーヴェの作る菓子のとりこになった。

 ネーヴェは氷の美貌に、企むような笑みを浮かべる。

 

「料理ではありませんわ」

「料理じゃない?」

「私は、石鹸を作りたいのです」

 

 石鹸? とアントニオは呆ける。

 長い道のりだったと、ネーヴェは振り返って思う。

 遠回りしたけれど、これでやっと、石鹸の材料がそろった。

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