Side: 異国の魔術師

 魔術師ガイウスは、かねてより自分の思い通りになる国が欲しいと思っていた。さまざまな魔術の人体実験をするのに、国の取り締まりを受けない自由な環境が必要だったからだ。

 緑豊かな小国フォレスタは、ガイウスの希望にぴったり一致した国だった。

 小さく歴史の浅い国で、管理しやすそうだ。それに背後が山脈で、他国を気にしなくていい。あえて言えば、海側のオセアーノ帝国が隣国だが、天使の加護があるので侵略される可能性は低い。

 そして、国を守る天使の加護も、このフォレスタの場合、王族との関係が良いとは言えず、付け入る隙があった。

 異界から召還した乙女は、聖女とは名ばかりの、ガイウスの使い魔のようなもの。召喚魔術のことわりにしたがい、ガイウスの命令に逆らえない。

 彼女を王族と結婚させ、国をのっとるつもりでいた。

 そんなガイウスの唯一の誤算は、自分で呼び出した、虫の魔物。


「虫の繁殖力を、甘く見ていたな」

 

 口実として用意した虫の魔物は、用が終わったら速やかに送還するつもりだった。


「虫を食う魔物でも召還するか? いや、もう生物は、こりごりだ。変異すると制御できん……」

 

 聖女ミヤビを召還した時に、魔物の虫は送還したのだ。

 それで一時的に魔物の被害はおさまり、ガイウスの言葉は真実だったと証明できた。しかし、現地の豊かな作物を食った魔物は卵を産んでいた。今、フォレスタを襲っているのは、二世代めの虫の魔物である。もはやガイウスでは送還できない。

 魔物の虫が消えない状況のため、ガイウスを疑う者が増えはじめている。

 このままではいけない。

 早急に、対策を考えなければ。


「ええい、あの女は、まだ王子を落とせぬのか」

 

 聖女ミヤビは王子と親しくなっていたが、まだ婚約に至っていない。

 さっさと結婚してしまえば良い。

 そうすれば王子を操ることができ、この国は、ガイウスの思うままだ。

 

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