第16話 清潔な未来のために

「あれは、山焼き……?」

 

 午後になり、開けた峠道に差し掛かった。

 もう人里が近いらしく、ぽつぽつと民家が見え始めている。

 斜面には畑が広がっており、それは穏やかな田園風景だった。

 その畑の一部が、燃えている。

 ネーヴェは眼を凝らし、それがオリーブ畑だと気付いた。


「もしかして、焼いているの? 虫の魔物が広がらないように」

「リグリスも、駄目かもしれんな……」

 

 オリーブの実を求めてやってきた商人アントニオは、落胆している。実が熟すのは秋ごろだが、その前に商談をしたかったようだ。

 リグリスの街に近付くにつれ、焼け野原になった畑が目に付いた。

 焦土になった畑に、炭になった木々が墓標のように並んでいる。オリーブの木々の亡霊のような姿に、ネーヴェは衝撃を受けた。

 すれ違う農民は、とても暗い顔をしている。


「こんなことは、許されないですわ……!」

 

 王都で、この惨状を見てみぬ振りをしている、王族や貴族に、つぶてを投げてやりたい。

 ネーヴェはいきどおりに体が燃えるようだった。

 街に到着し、カルメラ達傭兵が情報を収集してくれる。

 リグリス州のオリーブは、今年はやはり不作のようだ。しかし、オリーブ農家の地道な山焼きが功を奏し、実を付けた木も残っているという。


「国は、聖女様を召還したから、その内よくなるはずだと言って何もしない」

 

 農民達は、そう嘆いていた。

 

「残っているオリーブだけでも、守らなければ」

 

 このままでは、石鹸が作れなくなってしまう!

 夕食の後、ネーヴェは決意し、シエロに話しかけた。


「オセアーノ帝国は海に面しているから、貝殻を仕入れられますよね?」

「そうだな」


 シエロは、勢いに圧されて首を縦に振る。


「急ぎ、仕入れられるだけ、貝殻を仕入れましょう! リグリス州の農家に、貝殻の粉を配るんです!」

 

 誰も何もしないなら、自分が何とかしてやる。

 フォレスタ国民のために、そしてネーヴェ自身の清潔な未来のために。


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