第48話 無愛想な案内
「また貴様か」
無愛想な言葉と表情で出迎えてくれたのはリリシアだった。
相変わらずグリフォンもびっくりな桁外れの察知能力のようで、エルフの里に近づいて直ぐに待ち受けられていた。
森の中にいる限りエルフの目と耳からは逃れられないってわけだ。
「やあ、元気?」
「気安くするな、そんな間柄じゃない」
「あ、そう。それで要件なんどけど」
「手短に言え」
「米がほしい」
「米? 米か」
「ある?」
「さあな。自分で確かめろ」
とことん俺たちのことが気に食わないらしい。あるいは俺単品が嫌われているのか。
後者ならいいんだけど。
「じゃあ、そうさせてもらうよ。入っていいんだろ? 確かめるために」
「ふん」
『通してはくれるんだよな』
『一回跳ね返らないと会話できないのか? このエルフ』
『意地張っててかわいい』
『目を覚ませ、たぶん俺達の倍くらい生きてるぞ』
『なんの問題が?』
『全然いけるが』
『寧ろ望むところだが』
「極めて不快な会話がなされている気がするんだが?」
「気の所為なんだが」
「だがだがー!」
そっとコメントの読み上げ機能を切ってその場をしのぐ。後でまた、よきところで入れておこう。
「お、とりあえず里にはついたな」
草木を掻き分けて進むことしばらく、木々の上で発展したエルフの里が視界に現れる。
その独特の文化は今日も営まれていた。
「さて、田んぼがあるなら高いところから探さないとだな。一度、里に上がろうか」
「螺旋階段ですね」
「すっごく長くて地味に大変なんですよねー」
「リフトでもあれば楽なんでしょうけど……」
「リフトか。でも、それくらいならエルフたちにも作れるだろうし、あえて用意してないのかもな」
木の上に里を作れるのだから、技術的な問題で作れないわけではないはずだし、リフトやそれに類する発明がまだない、なんてことは考えにくい。
「えー? 便利なのに」
「なんでも便利にすればいいってものじゃない、ってことなのかも」
「雲雀ちゃんは今の生活手放せる?」
「無理」
「私もー。ハジメさんのいない生活なんて考えられなーい」
『ハジメちゃんの家電化はよ』
『このハジメちゃんはどこで売ってますか?』
『そこにないならないですね』
『それでしたらこちらの売り場で百五十万となっております』
『その辺の売り場で気安く行われる人身売買』
『安くない?』
『二個くれ』
「人を勝手に売買するな。誰が百五十万だ。あと二人って言え、個じゃなくて」
『よしんばドルだったとしたら?』
「ドルだったとしても!」
金額の問題じゃない。
「どこへ行く」
「どこって里の上から田んぼを探そうと思って」
「そうか」
と、言いつつリリシアは俺たちから目をそらす。腕組みをして、別の方向を見つめていた。
「なんでしょう? 何か言いたげですけど」
「あっちに何かある、とか?」
「もしかして……田んぼ?」
『ええ?』
『教えたいのか教えたくないのかはっきりしろ』
『素直じゃなくてかわいい』
『このエルフ面倒臭いな』
『だが待ってほしい。罠という可能性はなかろうか』
『なんの罠だよ』
「じゃあ、とりあえずあっちに行ってみるか」
見つめる先に向かって歩き出すと、リリシアも後からついてくる。
方向はこれであってるみたい。
『これどういう心境なの? エルフ』
『案内したくないけど、仕事柄しなくちゃならない、とか?』
『ヒントはやるから勝手に見つけろ的な?』
『面倒臭いなぁ! もう!』
その後も俺たちが間違った方へと向かいそうになると一言リリシアからあって軌道修正をする、というのを繰り返す。
田んぼがあるなら、あと少しでみつけられそうだ。
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