第47話 奇襲
傷を負ったグリフォンの意識が俺一人に集中する。けれど、今の視野が狭まった状態でも、普通の奇襲は成功しないだろう。
どんな攻撃を放ったところで、即座に察知されて回避か防御、迎撃をされるだけだ。
でも、グリフォンの察知能力の大半を占めているのは、五感ではなく気流を読む力だ。
つまり、気流を乱さなければ、紛れ込めば、グリフォンの類まれな察知能力を欺ける。
「やるな、雲雀」
鷲の両翼が大きく広がり、今まさに突風を、鎌鼬を放とうとした瞬間、その背後に伊那を連れた雲雀が現れる。
風を纏う飛翔により、気流を乱すことなく、グリフォンの死角をつく。
風の魔法で見事にグリフォンを欺いた。
「伊那!」
「おまかせ!」
とはいえ、雲雀はまだ未熟で、同じ風使いであるグリフォンには敵わない。攻撃を放っても相殺され、刻める傷は限られていた。
だから、伊那の魔法が生きる。
使い手としての技量で劣っていても、別系統の属性なら、その一撃は命に届く。
「イルミネイト!」
夜に明かりをもたらす電気が輝き、一条の槍となってグリフォンを貫いた。
鷲の翼を、獅子の胴を、蛇の頭を、焼き切られたグリフォンは、たまらず体勢を崩して地に伏す、かに見えた。
「やばっ!」
獅子の四肢が最期の力を振り絞って反転。もう幾ばくもなく数秒と持たない生命の火を盛らせ、反撃に打って出た。
その決死の一撃を通すわけには行かない。
「間に合え!」
虎鶫の刀身に漲る魔力を刃とし、振るった一撃は何よりも速く標的へと到達し、自らの役目を果たす。
グリフォンを背後から斬り裂いて馳せ、二人の側を掠めて過ぎる。
なんとかなった。
『あっぶな』
『二人ごと真っ二つになるかと』
『服だけ斬れ』
『狙ってやったなら並外れた精密さだな』
『え、ハジメちゃんってこんなこともできるの?』
『だた武器が強いだけじゃないんだそ、ハジメちゃんは』
『なんでこんな人材が前までソロ専だったの……』
「やんごとない事情があるの、人には」
その事情をリスナーに話すつもりはないけど。
異空間を開いて、密かに作っておいた靴を一足取り出す。アルミラージの耳と毛皮を材料にしたものだ。
この靴を履けば、たちまち兎のような跳躍力が手に入る。
『そんなのいつ作ったの?』
「ダンジョンに幽閉されてすぐだよ。使う機会はなかったけどな」
そう言えば靴ももうボロボロだな。
なんてことを頭の片隅で考えつつ跳躍。
この体は重力から解放されたようにふわりと舞い上がり、一度で崖の中腹にある巣のもとに着地できた。
「クセがあるけど、なかなかいいな」
「わぁ! 楽しそう! 私もやってみたーい! 無重力ー!」
「わ、私も……」
「あぁ、いいよ。でも、その前に」
足元には血の海が広がり、巣の側には二つに分かれたグリフォンの死体が横たわっている。
「あーあ、倒せたと思ったのになー」
「思わぬ反撃だったわね……私もうまく行ったと思ったのに……」
「まぁでも、ほとんど成功したようなもんだよ、作戦」
「でも結局、私の作戦は詰めが甘くて、またハジメさんに頼る形に」
「だとしても良い作戦だったよ。反省点があると思うなら次に活かせばいい。至らないところがあれば俺がカバーするよ。少しずつ前に進んでいけばいい」
「……はい!」
この後、異空間にグリフォンの死体とその卵を放り込み、渓谷エリアを後にした。
拠点候補の下見も兼ねていた今回だったけど、やっぱりここはダメそうだ。
今の拠点から近いのはもちろん、食用に適した植物が少ない。
空を飛ぶ魔物の種類も多岐に渡り、ここに拠点を構えると、何度屋根を修理するはめになることやらだ。
川の水は綺麗だし、泳ぐ魚にも毒はないんだけどな。
「おっとそうだ。エルフの里に寄らないと」
「お米!」
「あるといいんだけど」
果たしてエルフの里に田んぼはあるのか。
確かめに行こう。
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