第46話 グリフォン
朽ち果てた風切り羽を道しるべにして辿り、川辺を歩くこと少しばかり。
決して平らではない川辺に足にも披露感が出てき始めたところで目標であるグリフォンの巣を発見した。
鷲の頭に翼、獅子の胴体、蛇の尻尾。
三種の動物を掛け合わせた姿をしたグリフォンは、やはり巣の上に鎮座していた。
あの下には卵があるはず。
「グリフォンは一体、
巣は他の魔物を寄せ付けない切り立った崖の中腹にある。隠れてこっそりは無理があった。
「さぁ、どう攻めようか」
「うーん……」
「万全を期すには……」
『不意打ち』
『奇襲以外なくない?』
『遠くから魔法を撃ってすぐ移動しろ』
「いい案だ、グリフォンが相手じゃなければ」
『どういうこと?』
「グリフォンは気流が読めるんだ。攻撃した瞬間に発生した空気の流れでこっちの位置を把握される」
「奇襲は成功しない……しても効果が薄い」
『でも遠くから卵を狙えばグリフォンは躱せなくない?』
「卵が粉々になるだろ。それに魔法が届くまでに撃ち落とされるのがオチだ。まぁそれでも軽傷くらいは負わせられるかもな。どうする? 二人とも」
「むー! 私こういうの苦手! 雲雀ちゃんにパス!」
「こらこら、思考放棄しない」
「だってー」
「あの、私に考えがあります」
§
「よし、配置についた」
雲雀と伊那から離れて木の陰に身を隠す。
位置は巣のある崖から少し離れたところ。
伸びに伸びた枝葉の隙間からはグリフォンが見える。
多少、警戒した様子は見られるものの、その対象は俺たちじゃなく、卵を狙うすべての存在に向けれたもの。
俺たちを対象にしているわけじゃない。
『上手くいく?』
「やってみないことにはわからないな。この作戦の成否は雲雀と伊那に掛かってる」
『ホントはハジメちゃん一人だけでもなんとかなるんでしょ?』
「まぁ、やりようはある。けど、いつまでも俺がおんぶに抱っこしてちゃ二人の成長に繋がらないだろ?」
『ママ?』
「せめてパパと言え。パパって歳でもないけど。いや、早けりゃパパか」
俺くらいの歳でも子供がいる奴はいる。
「なんにせよ、雲雀が知恵を絞って出した作戦だ。俺から見ても成功率は高いと思う。もしダメなら俺がフォローすればいい」
異空間を開いて虎鶫を抜く。
「作戦開始だ」
俺が成すべきは失敗するとわかっている、もしくは成功しても効果的ではないと知っている奇襲だ。
これによってグリフォンは俺の存在にだけ気づく。いわば囮だ。
「――ハジメさんには危険な役をさせてしまいますが」
雲雀は申し訳なさそうにしていた。
中々伝わらないものだ、頼られて嬉しいって気持ちは。
「派手にやるぞ!」
魔力と力を込めて虎鶫で虚空を断つ。
刀身に漲る魔力が刃を離れて飛翔し、真っ直ぐにグリフォンへと向かう。
その奇襲を、あたかも最初から知っていたかのように、グリフォンは応戦する。
背の両翼で虚空を掴み、羽ばたいた風が刃となって舞い、虎鶫から放たれた一閃を切り刻む。
威力を削がれた魔力の刃は、けれど最低限の役割を果たす。
果てながらもグリフォンに届いたそれは、その体表に浅い刀傷を刻む。
奇襲によって負わせられた傷から鮮血が散り、グリフォンの意識が完全にこちらへと向いた。
広がる枝葉の隙間を縫って、鋭い視線が俺を射抜く。
あの距離から正確に俺の位置を割り出せるんだから、その察知能力は驚嘆の一言に尽きる。
「さて、どうなるかな」
ここからは二人の働き次第だ。
雲雀と伊那を信じていないわけじゃないが、いつでも動けるようにはしつつ、上手く行くかどうかここから見させてもらおう。
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