第42話 鉱石の花

 辺りに散らばったゴーレムモドキの破片の中から、雲雀と伊那の戦いに目を向ける。

 二人は苦戦中のようだった。


「かったーい!」

「再生が早い!」


 風と雷、二種の魔法がゴーレムモドキに襲い掛かり、その鉱石の体を削り取る。

 だけど、そのいずれもが浅い。

 表層を撫でるばかりで芯に届かず、有効な攻撃になり得ていない。

 火力不足。

 今のままじゃコアの位置を割り出せても、そこまで魔法が届かないだろう。


『ハジメちゃんはスパスパ切ってたのに』

『ゴーレムモドキってあんなに硬いのか』

『お前らハジメちゃんで感覚麻痺してるけど普通はあんな簡単に倒せないからな』

『ハジメちゃんは凄い人だった?』

『あんななのに』

「あんなってなんだ、あんなって」


 このままじゃ勝てないのは明白。

 さて、二人はどうするかな。


「雲雀ちゃん雲雀ちゃん! このままじゃジリ貧だよ!」

「今のままじゃダメ。なにか手を考えないと!」

「なにかってー!?」

「それがわかれば苦労はしないの!」


 幸いなことにゴーレムモドキの動作は大振りでいて緩慢だ。よく見ていればまず当たらない。

 それだけに二人の心境は複雑だろう。

 攻め立てているはずなのに、逆に追い詰められているような焦燥感に苛まれているはず。

 火力がないならないでやりようはある。

 そのことで二人の頭はいっぱいだ。


「私たちだけじゃ勝てない。他になにか……」

「もー! 硬すぎ! コアの位置はもうわかってるのに!」


 二人が集中して攻撃している箇所と、破片が再生する様子を見れば、コアの大体の位置はここからでも見当がつく。

 いよいよとなれば俺が斬るけど、出来るなら自分たちの力で倒して欲しい。

 俺に何かあっても、二人でダンジョンを生き抜けるように。


「埒が明かない! こんのぉ!」


 稲妻が激しさを増し、一層太い雷撃がゴーレムモドキを襲う。

 だが、やはり届かない。

 深くえぐれはしたものの、直ぐに再生されてしまった。

 けど。


「伊那! さっきのもう一回!」

「へ? でもダメだったよ?」

「倒せるかも知れないの!」

「ホント!? じゃあやる!」


 再び、伊那は激しい稲妻を纏う。


「そのまま!」

「なになに、なんなの? これ結構キツイんだけどなー!」

「もう少し頑張って! いま切り出すから!」

「切り出すってなにを!?」

「鉱石の花びら!」


 雲雀が魔法を放った対象は、ゴーレムモドキが産まれた鉱石の花。


「お、気付いた」

『鉱石の花?』

『そんなもんどうすんの?』

「ゴーレムモドキが地中の鉱石を巻き込んで産まれるって話はしただろ? それ、あの鉱石の花も同じなんだよ」

『だから?』

「鉱石の中には磁気を帯びてるものもある。つまり浮くんだ。雷の魔法で」

『なるほど、雷の魔法が磁界を作ったのか』

「伊那は意図してなかったみたいだけど」

 この位置からも磁界の発生によって細かな破片が浮かぶのが見えた。

 近くにいたなら尚更だ。

 そこで雲雀は思いついた。

 流石にゴーレムモドキ自体を浮かせることはまだ難しいだろうけど、鉱石の花弁くらいなら今の伊那でも楽勝だと。

 そして。


「ハジメさんなら!」


 雲雀は切り出した鉱石の花弁を風の刃で研磨する。鋭く研がれたそれはもはや一振りの剣と言って差し支えない。

 ゴーレムモドキと同じ硬度を持った武器だ。


「伊那!」

「オッケー! イルミネイト!」


 雷の魔法による磁界を繰り、鉱石の剣が唸りを上げる。

 音と風圧を伴い、虚空を裂いて馳せた一撃は、自らも砕けながらゴーレムモドキを二体同時に切り裂いた。


「斬れた!」

「まだ終わってない!」


 その通り。胴体を真横に斬っただけ。

 まだゴーレムモドキは死んでない。

 けど、そこからなら届くはずだ。

 断面からなら、埋まったコアに。


「アトモスフィア!」


 渾身の一撃が乱舞となって吹き荒び、二つのコアが同時に切り刻まれた。

 離れた半身を繋ぎ止めようとゴーレムモドキは足掻くが、コアを失った以上それは叶わない。

 最後には二体とも自壊するように倒れ、粉々に砕け散った。


「やった!」


 声が重なって、二人は勝利を得た。

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