第40話 蜂の子フライ
その場で十体の土塊ゴーレムを作成し、各方角へと放つ。
あとは待っているだけでゴーレムモドキを見つけてくれるだろう。
時間がどれくらい掛かるかわからないけど、新たな採掘場を見つけたり塩泉から塩を取り出すよりずっと早いはず。
俺たちは、その間に昼食タイムだ。
異空間からそっと取り出すのは。
「うげー!」
この前取った蜂の子だ。
伊那は露骨に嫌な顔をして、雲雀は顔を顰めてしまった。
「ホントに食べるんですかー!?」
「シュガリー・ビーの幼虫は栄養価が高いんだぞ。それにフライにすると目茶苦茶美味い」
「だとしてもー!」
「伊那、贅沢は言ってられないわ。食べるしかないのよ……」
「雲雀ちゃーん……」
『諦めの境地』
『スパルタ食育』
『まぁ、ダンジョンの環境を考えたら好きはともかく嫌いの矯正はしたほうがいいし』
『今はいいけど、そのうち怪我とか病気で満足に食料が取れなくなるかも知れないしな』
『この配信を見ながらバーガー食うのが最近の楽しみ』
「わーん!」
リスナーの中にも酷い奴がいたもんだ。
ハンバーガーか。
「さて、準備準備。まずはケルピーの脂身を溶かして――」
フライパンの上で脂身が縮み上がり、上質な油が波を打つ。そこにシュガリー・ビーの蜂の子を投入して素揚げにしていく。
音を立ててキツネ色に染まり、甘い匂いが漂ってくる。
『美味そう』
『不味そう』
『うわ、俺ダメだこれ。金もらっても食いたくない』
『必要に迫られたらギリ食えるよりかなぁ』
『いや、これは美味いはず』
『美味くないわけがないぞ』
「あ、いい匂い」
「そっか、シュガリー・ビーって甘いんだ」
油の音が変わり、からりと揚がった蜂の子を皿の上へ。焚火だから火力が安定しないけど、美味く出来てよかった。
こうなるとキッチンペーパーがほしくなる。
「見た目は完全にポテトフライだな」
「頭とか足とかついてますけど」
「でも、食べられるようにならないと」
躊躇する二人なね先駆けて、まずは俺から蜂の子フライを口へと運ぶ。サクリと簡単に歯が通り、噛み潰すと程よい甘みが舌に乗る。
「ははっ、いいなこれ。美味い。カリカリの大学芋に似てるな」
普通の蜂の子は白子とか白身魚とかに似た味がするらしいけど、流石にダンジョンは一味違った。
シュガリー・ビーの名は伊達じゃないってことだ。
「大学芋……」
「目がぁ……」
「よし、わかった。頭はもいでおこうか」
二つ手に取り、もぎ取った頭は口の中へ。
「これ……なら?」
「頑張ろう、伊那」
頭のない蜂の子フライを手にした二人は、意を決した様子でそれを口へと運ぶ。
それから少しの無言が続き、飲み込んだ。
「ホントに大学芋だ……」
「美味しい、美味しいけど……」
「目を閉じてればなんとか!」
「これは虫じゃない、これは虫じゃない、これは虫じゃない」
見た目に、文字通り目を瞑れば、二人もどうにか蜂の子フライを食べられるみたいだ。
凄く複雑そうな顔をしてるけど。
「あーあ、とうとう虫食べちゃった。もうお嫁にいけなーい! ハジメさん責任とってくださいね」
『責任!』
『プロポーズかな?』
『男見せろハジメちゃん』
「そういう発言をしない。リスナーが調子に乗るから」
「はーい」
雲雀も呆れたように首を横に振っていた。
ため息が聞こえてくる。
同級生とか、色々と大勢を勘違いさせてそうだな、伊那。
「おっと、帰ってきた」
昼食を取り終えて後片付けをしていたところに、意外と早くゴーレムが戻って来る。
その体は半壊していて、細かな岩の破片が幾つも突き刺さっていた。
見つけた際に攻撃されたか。
「よく戻って来た」
『ハジメちゃんがゴーレムちゃんを労った……だと?』
『明日は雪が降るな』
『ハジメちゃんにもまだ人の心が残ってたんだな』
「どういう意味だコラ」
とにかく、これでゴーレムモドキの居場所がわかった。その鉱石の体を打ち砕いて岩塩を取り出してやる。
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