第39話 岩塩を求めて

「そーれ!」


 高く振り上げられたつるはしが落ち、甲高い音を鳴らして岩肌を砕く。

 大変な重労働だけど、冒険者として鍛えた体があれば苦じゃない。

 んだけど。


「ハジメさんハジメさん。もう結構、掘ってますよね」

「そうだな」

「ここまで一つも出てませんよね、岩塩」

「あぁ」


 何度、つるはしを振り下ろしても、掘っても掘っても、ただの岩しかない。

 以前は少し掘っただけでも透明な岩塩がザクザク出てきていたのに、今は欠片も見つけられない。

 すでにあった撤去されずに放置されていた瓦礫といい、もしかして。


「先を越されたか」

『先?』

『あーなるほど』

『平原エリアの連中か』

『ま、そりゃそうか。ここに岩塩があるって知ってるなら取りに来るよな』

『考えることは同じってわけだ』

『取り尽くされたな、こりゃ』


 元々、岩塩の採掘量は減少していたし、平原エリアの連中には俺たちにはないマンパワーがある。

 人海戦術でこの採掘場を襲えば、あっという間に岩塩を枯渇させられる。

 大量の冒険者を抱えるあちらは、塩分なんていくらあっても困らない。


 「えー!? じゃあ私たち無駄なことしてたんですかー!?」

「そう言うことになるわね」

「俺の考えが甘かったな。さて、どうするか」


 手っ取り早いのは平原エリアの連中と取引することだけど、気は進まない。


『エルフの時みたく取引すれば?』

『でも貴重な塩分だろ? 価値爆上がりしてるだろ』

『昔の胡椒かよ』

『なにかと交換ってなっても、吹っ掛けられそうだよな』


 それに物事はエスカレートするものだ。

 最初はよくても要求は大きくなり、果てに武器を指定されるかもしれない。

 雲雀と伊那には俺の主義に付き合わせて悪いが、何があろうとそれには応じられない。


「他に方法は……」

「新しく採掘できる場所を探すとか!」

「何日、いえ、何ヶ月掛けても見つからないかもしれないけど、それでもいい?」

「よくなーい!」

「一応、塩泉がどこかに湧いてるらしいけど。朝から晩まで掛かって一リットルあたり三十グラムだってさ」

「それでも全く手に入らないよりは……」

「途方もなーい!」

「やっぱり岩塩か」


 その場しのぎに取引をするくらいならアリか? こちらは三人だ、ある程度の大きさの岩塩が三つもあれば一ヶ月は持つ。

 その間に岩塩が採掘できる場所を探すのが一番現実的かもな。


「ゴーレムを使って探索範囲を広げれば……」

『そのうち過労死するぞ』

『配信外でもこき使ってるんだろ!』

『可哀想に』

「お前らのその謎のゴーレム愛はなんなんだよ、ホントに」


 一過性のものかと思ったら随分と長引いている。もしかしてこのまま定着するのか? まぁ、だとしても、だけど。


「いや、待てよ」


 ゴーレムか。


「聞いたことがある。山岳エリアにいるゴーレムから岩塩が取れたって」

「ゴーレム? ゴーレムって人工物じゃ」

「正確にはコアを持ってる鉱石生命体ってのが正しい。たまたまゴーレムと酷似した姿だからそう名前がついただけだよ」

「なるほど……ゴーレムモドキ、と言ったところですね」

「どっちが先だったか、わかんないけどねー」


 便宜上ゴーレムモドキと呼ぶけど、それは地中で発生し、その際に周囲の鉱物を取り込む性質を持っている。

 その鉱石の中に岩塩が混ざっている可能性は低くない。

 全くない可能性がある以上、効率的な理由で冒険者が岩塩目的でゴーレムモドキを狩ることはほぼないが、俺たちにとっては貴重な資源を秘めた宝箱だ。


「岩塩の採掘場を探すより、こっちのほうが確率が高そうですね」

「よし、早速ゴーレムを放とう」

『仲間に会えるよ!』

『その仲間、ハジメちゃんに見つかったら粉々に砕かれるんだけどな』

『この人でなし!』


 さて、ゴーレムを使ってゴーレムモドキを探させるとしよう。

 リスナーの声なんて無視だ無視。

 

 

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