第38話 採掘場へ
「岩塩プレートで肉を焼こう」
「どうしたんですか? いきなり」
「いや、そろそろ塩がなくなってきたなって」
手製の歯ブラシで歯を磨き、口を濯ぐ。
使い心地もばっちり、よく磨けてる。
虫歯にさよならバイバイだ。
「それで岩塩ですかー」
「山岳エリアで取れる岩塩ならそのまま食えるし、丁度いいと思ってさ」
不純物が少なく、透明で、そのまま削って食べられる。
「遠赤外線で美味しく焼けるそうですね。山岳エリアを訪れた冒険者はみんな岩塩プレートで肉を焼くとか」
「その通り、あれはいいぞ。焼き過ぎると塩辛くなるけど、角がなくて甘みもあって、肉によく合うんだ」
「ハジメさんの話を聞いてたら食べたくなってきちゃったかも」
「さっき食べたばかりなのに?」
「ちょっと運動したらまだまだ食べられちゃいそう!」
「開き直ったわね」
「じゃ、腹ごなしに登山と行こう」
配信の時間だ。
§
『お、今日はRTAか』
『リアル登山アタックやめろ』
『山岳エリアってことはあれか』
『岩塩だろうな』
『あれステーキによくあうよな。高いけど』
『ダンジョン産のもんはみんな高いからな』
「おっと、もう察しがついてるみたいだな」
山岳エリアの岩塩は市場にも出回っているし、値段の割によく売れる人気商品だ。
知名度も高い。流石にバレバレか。
「察しの通り、今回はこの山岳エリアで岩塩を取る。晩は岩塩プレートで肉を焼く!」
『もう美味い』
『よだれ出てきた』
『明日、岩塩買うわ』
リスナーの反応も上々。
岩塩の採掘場所はすでにわかっているし、そこまでの道筋も迷いなく歩ける。
今回は楽勝だ。
「さぁ、行こう」
二人と撮影ドローンを伴って、岩塩の採掘場へと向かう。
山岳エリアの入口が低い位置にあるため、ここからは登山になる。樹海エリアとはまた違った植生を眺めつつ道を行く。
「人の往来があるだけあって、よく踏み固められていますね」
「歩きやすーい!」
「先人たちに感謝しないとな」
脆くて危険な場所には石材で補強もなされてもいる。
昔は異空間に物をしまうことも出来なかったし、掘った岩塩を運ぶのは今とは比べ物にならないくらい大変だったはず。
そんな彼らのための道に便乗させてもらい、採掘場に近づいていく。
『最近、更に高くなったよなダンジョン産のもん』
『そりゃダンジョンに行き来できなくなったからな』
『特に岩塩だろ。こうなるちょっと前からすでに値段が上がってたぞ』
『それに品薄になってたよな。岩塩大好きマンとしては辛い』
『採掘量か減ってたんだっけ?』
『ハジメちゃんたちの分ある?』
『まったく取れなくなった訳じゃないし大丈夫だろ』
コメント欄で不穏なことが言われているけど大丈夫だ。
確かに岩塩の採掘量は減少の一途を辿っていた。枯渇するのも時間の問題だとも小耳に挟んだこともある。
だが岩塩が採掘場に残っているのはたしかだ。少なくとも俺たち三人が当分、塩気に困らないくらいは。
「見えてきた」
道を進むことしばらく、採掘場が見えてくる。岩肌の切り立った崖の麓に空いた洞窟。そこが採掘場だ。
洞窟周辺には採掘道具や機材が置かれている。
「ここかー。なんか普通ですね」
「何の変哲もない洞窟だからな」
「ダンジョンだからといって何もかもが特別ではない、ということですね」
「そういうこと。中に入ろうか」
撮影ドローンに搭載されたライトが採掘場の闇を払う。浮かび上がった岩肌には採掘の跡がしっかりと残っていた。
手前のほうはすでに岩塩が取り尽くされているので奥の方へと進む。
何度か分かれ道に行きあ出たが、以前に来た時の記憶を頼りに舵を切り、最奥に到達する。
「ん?」
そこには大量の瓦礫が無造作に、散らかったように放置されていた。
ここで採掘を行っていた人たちは、事故に繋がるからと、こんな風に瓦礫を放置したりは決してしなかったはず。
変だな。
「……とりあえず掘るか」
崩落の危険があるため魔法の使用は禁止。
昔ながらの手作業、つるはしを振るっての採掘になる。楽しい楽しい肉体労働の時間だ。
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