第37話 アイス

「美味しい! こんなの食べたことないかも!」

「シンプルな味付けなのに、お店で出てくる料理みたいです」

「これが食べられるならずっとダンジョンにいてもいいかも?」

「本気か?」

「ハジメさんと一緒なら!」

「はいはい」

「本当ですよー! ね? 雲雀ちゃん」

「わ、私に振らないで」


 和気藹々とした雰囲気の中、醤油の偉大さを再認識した一皿を食べ終える。骨まで美味い料理だった。

 我ながら会心の出来だ。


「ふー、お腹いっぱい」

「もう入らない?」

「はい! もう少しも!」

「そんなにいっぱい食べて平気? 前はあんなにスタイルを気にしてたのに」

「その分、動いてるから平気だもん」

「そっか。なら、こいつはもういらないかな」

「え? あ! それって!」


 取り出したるは甘くて美味しいなんちゃってアイス。

 冷凍庫の果実を半解凍にしておろし金ですり下ろし、たっぷりのハチミツで掻き混ぜたものだ。

 簡単なものだけど、これが意外と美味しい。


「わぁ! アイスだ、アイス!」

「さっきもう入らないって」

「アイスは別腹! 食べよ食べよー!」


 ニコニコの笑顔でアイスを受け取った伊那は、直ぐにスプーンで掬って口へと運ぶ。

 その直後、スプーンを握った手が激しく暴れ出した。


「んー! 美味しい! シャリシャリしてて甘くて冷たい! 最高!」

「本当だ、美味しい。果実の酸味が程よいですね。飲み込むのがもったいないかも」

「まだあるから、おかわり自由だ」

「やったー! ハジメさん大好き!」

「食べ過ぎちゃいそう。嬉しいです」


 思い付きで作ったにしては、ハチミツのアイスは美味く出来た。ハチミツは大量に確保できたし、しばらくは困らない。

 また食べたい時に作ろう、簡単だしな。


§


 太陽石が翳り、迎えた夜。

 ランタンの明かりで照らしたのは手持ちの物資たちだ。

 解体に使ったナイフは切れ味が悪くなってる。明日の朝にでも研いでおかないと。

 歯ブラシも毛先が開いてきたところだ。代用になる何かを考えるか。

 箸やスプーン、皿は木材を材料に幾らでも魔法で作成可能。問題なし。  

 醤油や塩胡椒といった調味料には限りがある。醤油はまだあるが、塩胡椒が心許ない。

 最悪、胡椒は諦めるしかないにしろ、塩はどうにか出来るはず。

 海原エリアの海水からではない方法で手に入れられる。


「そうだ、伊那部屋のインテリアも用意しないと」


 可愛くしたいんだっけ。本人の希望を聞いてそれらしい物が作れればいいんだけど。

 それに言葉には出さなかったけど、雲雀もインテリアを変えたがっていたように見えた。

 この際だから二部屋分を同時に作ることにしよう。


「退屈しないな、ダンジョン暮らしは」


 忙しすぎるのも考えものだけど。


「とりあえず歯ブラシからだな」


 冗談でなく、一番の優先事項だったりする。

 歯磨きを疎かにして虫歯にでもなったら一巻の終わりだ。治療法はないに等しく、果ては麻酔なしの抜歯だ。

 それだけは避けなければならない。


「二人の分も作っとくか」


 柄は木製にし、ブラシ部分にはバブル・ケルピーの馬毛を使用。

 程よい硬さとしなやかさがあって元の歯ブラシより磨き心地が良さそうだ。

 歯磨き粉があれば尚良しだけど、それはしようがないとしよう。

 洗剤として使っているアレを口に突っ込む訳にもいかないし。分量を誤ったら歯を磨くどころか溶かしてしまう。


「これでよしっと。ふぁ……もう寝るか。すっかり規則正しくなっちゃってまぁ」


 当たりが暗くなって数時間、体内時計だと午後十時くらい。こんなに早くに寝る習慣が付くとはおもわなかったな。

 まぁ、夜は何もすることがないし、寝る以外に暇を潰す手段がない。

 伊那は冗談めかして、ずっとダンジョン暮らしでもいいと言っていたけど、この暇をどうにかしないことには賛同しかねるな。

 早く地上に戻りたいもんだ。


「明日は山岳エリアだな」


 明日の予定を決めてから、スライムベッドに横になる。夜と違って朝は忙しい。二人よりも早く起きて朝食の準備をしないと。

 

 


 

 

 

 

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る