第17話 配信デビュー

「私たちが配信に、ですか」


 朝食を取り終え、デザートとして果物を食べた、その後のこと。配信の話を切り出すと、雲雀はすこし戸惑った様子を見せた。


「いいんですか? わーい、配信者デビューだ!」


 逆に伊那は乗り気だ。


「不安?」

「はい……知っての通り配信は初めてなので上手く出来るかどうか……」

「上手くこなそうとしなくてもいい。むしろ多少失敗してくれたほうが撮れ高になってありがたいよ」

「そ、そういうものなんですか?」

「あぁ、それにいつか自分たちで配信をする時の予行演習にもなる」

「予行演習……」

「その頃にはダンジョンから脱出してるはずだから話題性もばっちり。ロケットスタートを決められるぞ」

「いいですね、それ! 雲雀ちゃん雲雀ちゃん、こんなチャンスなかなかないよ!」

「そうね……わかりました。私、精一杯頑張ります」

「よし、決まりだ」


 配信のメリットは幾つかあって孤独感を紛らわせたり、色んな意見が聞けたり、ギフトがもらえたりと幾つがある。

 ギフトについては焼き肉のタレが贈られてきてから次がまだない。

 本当にあの一瞬だけ奇跡的に繋がっただけなのか。とにかく、配信していればまたギフトが通る瞬間が来るかもしれない。

 それを期待しておこう。


「じゃ、打ち合わせをしとこう」

「打ち合わせって?」

「事前にあーするこーするって決めておいたほうがグダグダにならずに済むだろ?」

「わぁ、それってなんだか配信者っぽい!」

「でも、予定通りに進むとは限りませんよね? 不測の事態が起こった場合はどうすれば?」

「そこは……ほら、アドリブでなんとか」

「アドリブ……」


 雲雀が不安で潰れそうになってる。

 伊那なら上手く立ち回ることも出来そうだけど、雲雀の性格からして難しそうではある。


「大丈夫。ハプニングが起こればそれがどう転んでも撮れ高になるから」

「ほらほら、頑張るんでしょ? 雲雀ちゃん」

「そうだけど……ううん、やると決めたもの。よし」


 握り締められた両手は決意の現れだ。


「まず今回の目標だけど――」


 二人は真剣な態度で打ち合わせに取り組んでくれた。あとは配信を始めるだけだ。


§

 

「そろそろ始めるぞ」

「は、はい!」

「あはは、雲雀ちゃん緊張しすぎー」

「なんで伊那は平気なのよ」

「んー、楽しみって感じのほうが大きいからかな? 緊張するーって感じより」

「伊那の性格が羨ましい」

「えへへー」


 撮影ドローンを宙に浮かべて配信開始。すると途端に大量のリスナーが雪崩込み、あっという間に同時接続数が五万を突破する。


『え』

『!?』

『なんかいる!』

『女の子が二人もだと?』

『誰よその女!』


 突如として現れた雲雀と伊那に、リスナーたちは大混乱。初っ端からコメント欄の流れは目で追えないくらい加速していた。


「凄い、コメントがこんなに沢山」

「ほとんど私たちのことだよ! 凄い凄い!」

『かわいい』

『一生推します』


 チョロいな、リスナー。


『ハジメちゃんそこ変わっ……らなくてもいいわ、別に』

『ダンジョンに閉じ込められるはちょっと』

「こっちに来いよって言いたいところだけど、入っても来られないからな」


 ダンジョンの出入り口が消失した原因は定かじゃない。

 なんらかのトラップが作動したのか、ダンジョンに住む亜人種によるものか、はたまた解明されていない未知のなにかによるものか。

 原因がわかれば、ひょっとしたら脱出の糸口が見つかるかも知れないけど、正直望み薄だ。

 まだダンジョンの最奥を目指すほうが可能性がある。


「さて、じゃあ今回の目標を」

『いやいやいや』

『待て待て待て』

『いかれへん、いかれへん』

『二人の紹介は!?』

「冗談だよ。二人共自己紹介を頼む」

「はいはーい! 私、天成伊那でーす! そしてー?」

「す、澄空雲雀です。よろしくお願いします」


 短い自己紹介だったが、無事に終えられて安堵したのか、雲雀は大きめの息を吐いた。


「二人とは配信外で一度会ってるんだ」

「私が毒にやられちゃったところを助けてくれたんですよねー」

「それが切っ掛けになって今こうなってるってわけ」

『ハジメちゃんが人助けを!?』

『ちゃんと人の心を持ってたんだな』

『明日は雪になりそう』

「お前ら人のことをなんだと思ってるんだ」


 誤解を招くような言動をしてきた自覚はあるけれども。助けられるなら手を差し伸べるぞ、流石の俺も。


「まぁ、そういうことだ。詳しいことは追々な。それでだ、さっき言い掛けたけど今回の目標を発表だ」

『家もベッドも風呂も作ったわけだけど、なに作るんだろ?』

「今回は樹海エリアを出て雪原エリアに行く」

『雪原エリア!?』

『ほかのエリアに行くのか』

『ってことは目当ては氷?』

「その通り。今は異空間に仕舞ってあるけど、消費し切れなくて腐るしかない肉が大量にあるだろ?」

『あー、なるほど』

『そういうことか』

『だから雪原エリアに』

「リスナーもわかったみたいだな。そう! 雪原エリアに行って冷蔵庫を作るぞ!」

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