第16話 みんなで朝食を
ここに置いて欲しい
雲雀と伊那の願いは唐突なもので、面食らってしまった。
「ハジメさんの主義はもちろん知っています。それを承知でどうかお願いします」
「言いたいことはわかったけど……二人は平原エリアの団体に参加したんじゃ」
「それが聞いてくださいハジメさん!」
テーブルに勢いよく手をついた伊那は大きく頬を膨らませていた。
「酷いんですよ! 新人は戦力にならないからって雑用ばっかり! ご飯は毎日同じで美味しくないし、テントはぎゅうぎゅうだし、マッサージまでしなくちゃいけないんですよ!」
「それは大変そうだけど……」
正直、それで衣食住の心配をしなくて済むなら全然アリなような気がするけど。
「それだけならまだ頑張れたんですけど」
「他になにが?」
「その……」
雲雀はすこし言い淀む。
「せ、セクハラが……」
「それは……問題だな」
「でしょー! 私も雲雀ちゃんも我慢の限界なんです! だからお願い! このとーり!」
二人が嘘をついているとは考え難い。
だけど、それと同じくらい、ダンジョンに閉じ込められてた当日に多くの冒険者を纏め上げたあの青年が、そんなことを容認するとは思えない。
想像するにセクハラをした冒険者は、人目に隠れてこそこそと、そういった行為に及んだのだろう。
そんな腰抜け野郎に大それたことは出来ないだろうが、被害を受けた二人に平原エリアに戻れとはとても言えなかった。
それに新人を助けるって決めたことだしな。
「……わかった。俺を頼って来てくれたんだ、好きなだけここにいていい」
「やった!」
「ただし、楽じゃないぞ。三人しか人がいないからな」
「わかっています」
「それでもあそこにいるより良いもんねー」
しかし、ダンジョンに幽閉された状態で、しかも逃げ場のない閉鎖空間にいて、よくそんな事が出来たもんだ。
恥知らずは何処にでもいるってことか。
「ところで……」
「ん?」
「お風呂! 使ってもいいですか?」
「風呂? あぁ、好きに使っていいよ」
「やった!」
喜びのあまりハイタッチを交わす二人。
「あっちではゆっくりお風呂に入れなかったものね」
「ねー、ほとんど烏の行水だったもん。露天風呂なんて楽しみ! ほらほら雲雀ちゃん、早く行こうよー!」
「はいはい。それじゃ、お風呂お借りします」
「あぁ。でも畏まらなくていいからな」
「はい、ありがとうございます」
雲雀の手をぐいぐいと引いた伊那が脱衣所へと消えていく。
「あ! そうだ!」
ひょっこり伊那の顔が脱衣所から出てくる。
「覗かないでくださいね?」
「するか!」
「えー、私たちそんなに魅力ないですか?」
「使用禁止にしようか?」
「ごめんなさーい!」
すぐに引っ込んだ。
それでよし。
「わぁ! いい景色だね!」
「そうね。それに湯船も広くて温度もちょうどいいわ。水源はどうしてるのかしら? 転移?」
「今はいいでしょー! それより掛け湯を済ませて早く入ろー!」
自慢の露天風呂は好評なようで思わず口元が緩んでしまう。画面越しのリスナーじゃない生の声だ。
とても嬉しい。
「さて、朝食の準備と行くか」
羊と蜥蜴の肉が有り余っている。
これらの消費に協力してもらおう。
「いや?」
そう言えば二人は毎日三食同じ肉料理だったんだっけ。その上、更に肉盛り沢山は流石に気が引けるな。
「さて、となると。そうだな……」
あらゆる朝食候補が頭に浮かぶ中、とりあえず外に出て焚き火をつけていると、採取に出していたゴーレムたちが帰還する。
土塊の腕の中には果物や木の実が幾つも抱えられていた。
「果物か……」
デザートには持って来いだけど、それだけじゃ物足りないよな。
「おっ、卵!」
真っ白な卵が果物や木の実に混じっていた。
市販の鶏卵より一回りほど大きくて数も十分にある。
「目玉焼き、卵焼き、スクランブルエッグ、オムレツなんかもいいな……あぁ、でもケチャップがないのか」
ケチャップがあればオムライスも視野にはいったんだけどしようがない。
ここはシンプルに目玉焼きにしよう。
「いや、待てよ……作れるかも、オムレツ」
まず食べられる野草を微塵切りに。次に羊肉をミンチにして野草と共に炒めていく。
フライパンは元から異空間に入っていた物を使用、油は羊肉の脂身で。
火が通ったらケチャップの代わりに焼き肉のタレを投下。
卵を割ったボウルに投入して混ぜ込み、再びフライパンに油を引いて加熱する。
あとは焼けた端から巻いて、形を作っていくだけ。
「出来た!」
焼き肉のタレで味付けしたオムレツだ。
「わぁ! いい匂いがする!」
「本当ね、いい匂い」
「お、いいタイミング。出来たてだ」
「やったぁ!」
風呂上がりですこし紅潮した二人に、朝食としてオムレツを振る舞う。美味く出来てるはずだけど。
「んー! 美味しい! 久しぶりの卵料理最高!」
「最近はお肉ばっかりだったものね。それを抜きにしても、とっても美味しい」
二人の顔に笑みが浮かぶ。
その様子にほっと胸を撫で下ろし、自分もオムレツを口に運んだ。
「あー、美味い」
我ながらいい出来に仕上がったもんだ。
「ハジメさんは料理も上手なんですね」
「お店が開けちゃいますよ!」
「よーし、おかわりを作ってやろう」
「いえーい!」
卵はまだ残ってるし、野草と肉も十分にある。焼き肉のタレは残り少ないがこの際だ、ケチケチせずに使ってしまおう。
朝食を食べ終えたら配信だ。
雲雀と伊那のことをリスナーに紹介しないと。
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