第14話 露天風呂
『風呂!』
『浴槽を作るってこと?』
『ヒノキ風呂みたいな奴か』
『いや、折角なら露天風呂だろ』
『サウナもいいぞ』
「いいね、順次作って行こう。でもまずは……やっぱ露天風呂だな。湖面を眺めながら湯に浸かれるなんて最高だぞ」
『それはヤバい』
『旅行に行きてー』
『どんなのになるか楽しみ!』
作るべきものが定まり、次に決めるのは露天風呂をどこに作るかだ。
露天風呂と言えば湯に浸かりながら見る絶景、これに尽きる。
静かな湖畔、雄大な木々、霞がかった天井。
その点、ここは景色として申し分ない。
やはり露天風呂を作るなら湖側だ。
「いっそ小屋と切り離して浴場だけを建てる手も……あぁいや、ないな。移動が面倒だし、小屋の中で完結させたい」
『通路作って繋げりゃいいじゃん』
「風呂に入るために長い通路を渡らなくちゃいけないってのは旅先だけで十分かな」
『ここがもう旅先みたいなもんだろ』
「ここでの暮らしを快適にしたいんだよ。旅先じゃなくて家みたいにさ」
ダンジョンから脱出するにはまだまだ時間が掛かる。それまで過ごすことになる住処は快適であるべきだ。
「という訳だ、露天風呂は小屋に隣接させる。間取りの兼ね合いを考えると……ここだな、この位置がいい」
『位置が決まったなら次は?』
「整地」
『ってことは』
『ゴーレムちゃん逃げて!』
「残念だが創造主の命令は絶対だ!」
という訳で、露天風呂の土台となる地面を平らに
まず景観を遮っている木々を建材にし、空間を広く取ってゴーレムを投入。
建材が運び出され、凹凸と起伏だらけの地面が掘り返されては均されていく。
元が土塊のゴーレムだ、整地なんてお手の物。地中から出てきた幾つかの大きな石も難なく取り出し、思っていたよりも早く地面は整えられた。
「よし、いい感じ」
整地が済んだらその上に浴場の床を敷く。
「浴場の床はタイル張りにしよう。掘り出した岩石が使えるな」
大きな岩石に魔法を掛けて何枚ものタイルを作成。一枚一枚張り付けていくのは面倒だから、ここは精霊に頼もう。
「頼んだ」
神樹の琥珀を持って念じれば精霊は意図を察してくれる。
積み重なった石のタイルは宙に浮かび、速やかに運ばれて平らに均された地面に敷き詰められていく。
「凄いな。ゴーレムに頼むよりずっと早い」
『問題発言』
『ゴーレムちゃんのことなんだと思ってるんですか!?』
『もしかして解雇?』
『これまで尽くしてくれたのはゴーレムちゃんなのに!』
「心配しなくてもゴーレムにはゴーレムの役割があるよ。解雇なんてしないしない」
出番は減るかも知れないが。
「おっと、そうだ。排水溝も作っとかないと」
浴場の端のほうに溝を掘り、余った石のタイルで補強。石のタイルに更に魔法を掛けて溝蓋を作り、被せておく。
「これでよし。さて、ざっと仮組みしてみたけど……よさそうだな」
今は完成形を見るために整地した地面に石のタイルを置いただけ。ここから更に変更することもできるけど、特に必要性は感じないかな。
このままで行こう。
「クラフト」
完成形のイメージが固まったので、ここから更に全体へと魔法を掛け、浴場の強度を底上げし、連結を強化する。
こうしておけば普段使いで壊れる心配はまずなくなる、はず。
「これで下地は完成ってところだな」
『じゃあ次は浴槽だ』
『なにで作る? 木? 岩?』
『木造だろ。樹海エリアと調和するし』
『でも木は腐るしカビるぞ』
『岩も手入れしないとぬるぬるになるから』
『露天風呂だろ? 風通しもいいし、大丈夫じゃね?』
『床が石のタイルだからな。浴槽も岩であるべきだろ』
『岩石一色ってのも味気なくない?』
「色んな意見が出てるけど……手入れが楽そうな岩にするか」
地面から掘り出した岩石はまだある。
ゴーレムの出番だ。
まずは浴槽となる浅く広い穴を掘り、底には石のタイルを敷き詰め、大小様々な岩石を縁取るように配置する。
排水のことも忘れずに。
そうして形を成した浴槽は、中々どうして様になっていた。
『いいじゃん、それっぽい!』
『風呂入りに来てこれだったら当たりだわ。普通に感動しそう』
『これがダンジョンじゃなかったら浸かりに行きたいレベルなんだけどなぁ』
「完璧だろ? 立地以外は」
改めて浴槽に魔法を掛けて、仮組みの状態から仕上げ完了。これで湯を張っても漏れたり濁ったりしないはずだ。
「さぁ、湯を張るぞ。精霊にお願いだ」
神樹の琥珀を介して精霊に頼むと、浴槽の真上、虚空から滝のように水が落ちて来る。
湖から引っ張ってくるのかと思ったけど、こういう形になるのか。これは都合がいい。
『精霊ちゃん有能かよ』
『いいもん交換したな』
こうして水をどこからか、この場合は恐らく湖から、転移させられるのなら応用してシャワーなんかも作れるかも。
まぁ、今回は後回しにするとして。
「さて、ようやくこいつの出番だな」
異空間から取り出すのはファイア・ドレイクの龍鱗。
「こいつは一枚だけだと大した熱は持たないんだ」
今もほのかに暖かいだけで、日向に放置した自転車のサドルのほうがよっぽど熱い。
「でも枚数を重ねると」
十枚ほど連結させて浴槽の隅に投下する。
すると、水中で灼熱の炎が立ち上った。
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