第9話 迸る稲妻
「美味しい! アルミラージのお肉! もう最高! ハジメさん大好き!」
「はっはー、そりゃどうも」
雲雀と伊那が小屋を訪ねてきてから二日が経った。
その頃になるとしっかりと休養がとれ、伊那は完全復活、元気溌剌といった様子だった。
先程から箸が止まらないし、毒によって負ったダメージは完全に抜けきったみたいだ。
ちなみに伊那はタレ派らしい。
「はー……美味しかった。ご馳走様!」
「絶好調みたいね」
「でしょ? スライムベッドだっけ? あれが気持ちよくて、なんだかいつもより体が軽いかも!」
「スライムが原材料だと聞いた時は驚いたけど、たしかに寝心地は凄くよかった。疲れが吹き飛んだみたい」
「凄いよね、生スライムなのに」
「えぇ、生スライムなのに」
「生、生、言うんじゃありません」
前にもあったな、こんなやり取り。
「ところでハジメさんたちはなに食べてるの?」
「具沢山スープってとこかな。アルミラージの骨で出汁をとったんだ。あとは魔物の肉とか野草とか色々入ってる。美味いぞー」
「わぁ、美味しそう!」
「伊那? まだ食べるつもりなの?」
「えへへ、一口だけ! おねがーい!」
「もう、しようがないわね」
「わーい! 雲雀ちゃんも大好き!」
こうして見ると二人の関係が姉妹のように見えてくる。
もちろん、雲雀が姉で伊那が妹。甘え上手な伊那となんだかんだ甘やかしてしまう雲雀でいいコンビだ。
「こっちも美味しい! もっと食べたいなぁ」
「ダメよ。病み上がりなんだから食べ過ぎは禁物。取っておいて上げるから我慢しなさい」
「はーい」
母親と娘にも見えてきたな。
§
「お礼?」
「はい。私たちに出来ることがあれば」
「助けてもらいましたから、なにかお返ししないと」
「うーん」
お礼か。
「雲雀にはベッド作りを手伝ってもらったしな」
視線を二人からベッドの方へと移す。
リビングの端に一つ、ここにはないが寝室に二つ。片方は雲雀が仕留めたスライムを材料にして作っている。
「俺としてはそれで十分なんだけど」
「でも、私たちが居なくなったあとは無用の長物ですよね?」
「いや、そんなことない。三つ合わせればキングサイズのベッドだ。無駄にはならないよ」
一度、やってみたかったんだ。
でかいベッドで眠るのはさぞ気持ちがいいに違いない。楽しみですらある。
「じゃあじゃあ、雲雀ちゃんのお礼はそれってことにして、今度は私のお礼!」
「そう来たか」
「してほしいこととか、困ってることはありませんか? 魔物狩りでもいいですよ!」
自信満々といった風な言い方をして、伊那は全身に閃光を
「イルミネイト」
高速で明滅する稲妻だ。
「私の魔法で瞬殺です!」
稲妻、雷、電気か。
そう言えば――
「じゃあ例えばだけど」
「はい、なんですか?」
異空間を開く。
「これとか充電できたり……する?」
取り出すのは、少しでもバッテリー消費を抑えようと異空間にしまっていた撮影ドローン。
「バッテリーの充電ですね、任せてください! 私、携帯端末も自分で充電してるんですから! それ!」
滞空する撮影ドローンに雷撃が直撃する。
壊れやしないかとひやひやしたが、表示されているバッテリー残量が見る見るうちに増えている。
あまりの急速充電ぶりに、これはこれで寿命が縮んでいそうだった。
けど、伊那本人も携帯端末を自分の魔法で充電しているみたいだし、大丈夫だろう。
たぶん。
ここは伊那の腕を信じる他ない。
それに、もともといつかは充電が切れていたものだしな。
「かんりょーです!」
「ありがと、これでまた配信できるよ」
孤独を紛らわすことも出来るし、またギフトを受け取れるかも知れない。
とにかく助かった。
「また充電したくなったら平原エリアに来てくださいね。ハジメさんだったらいつでも大歓迎ですから!」
「二日間お世話になりました」
「あぁ、元気でな」
樹海の木々の中に消えていく二人の姿を見えなくなるまで見送ると、しんと静まり返った小屋に自然と目が向かった。
「意外と淋しくなるもんだな」
それでも主義は曲げないが。
「さーて、じゃあ配信を始めるか……いや、その前に」
撮影ドローンを起動する前に、一度小屋に戻ることにした。リビングのスライムベッドの下に異空間を開いて落とし、そのまま寝室へ。
再び異空間を開いてスライムベッドを三台並べて魔法を掛ける。
「クラフト」
三台が纏まって一つに結合し、キングサイズのベッドに早変わり。寝室のほぼすべてを専有するほど巨大になった。
「いいね! だけど、こうなると手狭だな」
ベッドが大きくなったのは非常によいことだけど、その代償として寝室がかなり窮屈になってしまった。
こんな時は寝室のほうを拡張するに限る。
最初に解体した樹木の建材はまだまだあって、それを用いて寝室を改造。空間がぐっと広がり、スペースを確保した。
「寝室がリビング並みの広さになったけど……まぁ、いいか!」
細かいことは気にしないことにしよう。
「よし、配信開始!」
出来立てのベッドと寝室のお披露目からスタートだ。
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