第7話 治癒のポーション

 手製の弓との等価交換によって無事に薬草を手に入れられた。その足で小屋に戻ると、直ぐに治癒のポーションを作成にかかる。

 材料はすでにすべて揃い済み。

 薬草、清潔な水、スライムのゼリー体。

 これらを魔法に掛け、面倒な精製過程をすっ飛ばす。出来上がったものをカップに移せば治癒のポーションの完成だ。


伊那いな、飲んで。ゆっくりでいいから」

「うあ……」


 努めてゆっくりと慎重に、雲雀はカップを傾ける。淵に口をつけた少女――伊那は少しずつではあるが飲み込めていた。

 時間は掛かっても飲み干せそうかな。


「大丈夫そうだな。またちょっと出てくる」

「あ、はい」


 飲ませる役は雲雀に任せ、俺は一度小屋の外へ。


「そろそろ戻ってくるはず」


 辺りを見渡すと、近くの茂みがガサガサと音を鳴らして揺れ動く。その後すぐに現れたのは十体のゴーレムたち。

 その土塊の手には幾つかの果実が抱えられている。薬草を探しに小屋を出たついでに命令しておいた。


「またリスナーに色々言われそうだけど」


 ゴーレムたちから果物を受け取り、食べられるものとそうでないものに選別していく。

 渋いもの、苦いもの、味がないもの、それら不要な果物は、今後ゴーレムが採ってこないように指示できる。


「これは大丈夫、これも……これはたしか駄目だったはず。あー、これ渋いけど栄養はあるんだよな」


 やや赤みがかったオレンジの果実。


「干し柿みたいにすると甘くなるけど……」


 出来上がるのに二週間かかる。


「二週間か……先の長い話だな」


 いつまで。

 そんな考えが過ぎり、すぐにそれを振り払う。今は生き残ることだけを考えるべきだ。

 先を見て、その道程の険しさに打ちひしがれるのは、生活基盤を整えてからでいい。


「とりあえず干しとくか」


 病人に渋いものを食べさせるのも酷だ。

 二週間後を楽しみにしていよう。


「選別完了。あとは……たしかもう使ってない籠手が……あった」


 異空間から引っ張り出したのは以前に使っていた籠手。魔物の爪に負けて引き裂けたの機に異空間の肥やしとなったものだ。

 魔法で直せたけど、もっと頑丈な籠手のほうがいい。

 そんな哀れな防具に新たな役目を与えよう。


「クラフト」


 籠手の一部が剥がれ、変形し、龍の鱗が逆立つように鋭い棘が立つ。

 出来上がったのは、おろし金だ。


「よし、いい感じ」


 消毒を済ませ、幾つかある果実の中でも経験上、もっとも甘いものを選び、おろし金に掛けて摩り下ろす。

 病人に食べさせるなら消化に良いものだ。

 出来上がったものを小屋に持っていくと、早速治癒のポーションの効果が出たのか、伊那の顔色は随分とよくなっていた。


「えー、もう大丈夫だよー」

「駄目。まだ安静にしていないと」

「平気だって。治癒のポーションのお陰でほら、こんなに元気だよ?」

「だとしても」

「ぶー」


 頬を膨らませた伊那と、ふと目が合う。


「あ! 貴方がハジメさんですか? 思ってたより格好いい!」

「はっはー、そりゃどうも。お礼にこれをあげよう。果物の摩り下ろしだ」

「わー! 美味しそう! ありがとうございまーす!」


 治癒のポーションは効果覿面だったようで、もうすっかり元気になっていた。

 すこし元気過ぎるくらいだ。

 天性の明るさなんだろうけど、大人しい雲雀とは対象的。


「んー! 甘くて美味しい!」

「伊那、そんなに急いで食べたらむせるわよ」

「もー、雲雀ちゃん心配性なんだから。ぜんぜん平気だもーん」


 果実の摩り下ろしはあっという間になくなり、伊那の顔に満足そうな表情が浮かぶ。


「よいしょっと」

「い、伊那! 立ち上がったら――」

「んー……うん、平気! 大丈夫みた――おっとっと」

「危な」


 よろめいた伊那を咄嗟に抱きとめる。

 思ったよりも華奢な体つきにすこし驚く。こんな細い腕で。そう思ってしまった。


「あ、ありがとう……ございます……」

「いや、いいんだ。それより安静にしてること。せめて今日一日くらいは」

「はーい」


 観念した風に伊那はベッドに戻る。

 まだ本調子には程遠いと本人を理解したはず。明日が来るまでは大人しくしててくれるだろう。


「はーあ、ダンジョンには閉じ込められちゃうし、毒魚には当たっちゃうし、大変だぁ」

「体調が戻ったら平原エリアにいくといい。そこに冒険者が集まってるから――って、もう知ってるか」

「はい。私、ちょうど平原エリアに向かう途中だったんです」

「あれ? でも、それじゃあハジメさんはここでなにを? この小屋は?」

「俺は……ここに拠点を構えることにしたんだ。他の人たちとは離れて」

「どうしてですか?」

「そのほうが気楽だからかな」


 理由はそれだけじゃないけど、嘘は言ってない。気楽なのは本当のことだし、ここに拠点を構えることの利点もある。


「合流は考えていないんですか?」

「今のところは。たぶん、ずっとかな」

「そうですか……」

「ふーん、そっかぁ……ちょっと残念かも」

「ま、一人がいいって言っても追い出したりはしないから二人ともゆっくりしててくれ。あっ、そうだ。ベッドをもう二つ作らないとな」

「ベッドを? そう言えばダンジョンの中にどうしてこんなまともな小屋やベッドが……」

「言われてみればそうかも! ねぇねぇ、どうやって持ち込んだんですか? 教えてくださいよー」

「持ち込んだんじゃない。作ったんだ」

「作った?」


 二人はぽかんとした表情を作る。

 実際に見せたほうが早いかな。 

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