第20回「フィクション」
A「これは架空のお話です」
B「どうした急に?」
A「こう言っておかないと本気にする人もいるかなと思って」
B「そんなに勘違いされたら困るようなことを話すの?」
A「俺は東京都武蔵野市吉祥寺東町2丁目6-3 謙祐アパート501に住んでる」
B「お前何言ってんだよ!」
A「架空のお話だから何を言っても大丈夫だ」
B「自分の住まいをばらしてどうするんだよ。過激なファンから襲撃されるぞ」
A「大丈夫だ。今喋ったアパートも住所も実在しないし、俺たちに過激なファンはいないし、襲撃されるようなこともしてない」
B「・・・襲撃されるようなことをしてないことが架空ってことは、お前何かやってんだな?」
A「お前のその疑問自体も架空のものだ」
B「何を信じたら良いのかもはやわからない!」
A「俺たちが1ステージの公演をすることによって得られる手取りは2人で20,000円程度だ。土日2日間全6ステで金曜からの立て込みで音照さんに制作さんにその他色々支払った挙句、20,000円が手元に残る。それを二人で山分けするから10,000円が個人の手取りになる」
B「リアルなのかリアルじゃないのかわかりにくい数字だな」
A「当然それだけじゃ食っていけないから色々やる」
B「まぁまぁ」
A「バイトをする時もあれば先輩のステージの手伝いをする時もある。本数は少ないけどテレビの仕事の時なんかもしっかりギャラが出る。テレビの仕事は名前を売る絶好のチャンスだから収入云々抜きにしておいしいと言えばおいしい。うまいこと先輩を捕まえておごってもらうことで食費をちょっとでも削ってみたり、たまには親の脛をかじっては糊口を凌いだり、やり方は様々ある」
B「リアルかどうかはおいておいて、なんか生々しく伝わるからこの話、一回やめにしようぜ」
A「大丈夫だって、これ全部架空の話だから」
B「架空というワードに置いてる絶大な信頼は一体なんなんだ?」
A「テレビだってこのお話はフィクションですの一言でえげつないことやってるだろう?画面の中では事件だって起これば人間関係のドロドロ劇もあれば法的にガッツリアウトなことだって、何だってまかり通っている」
B「まぁ明らかなフィクションだし、そもそも見ている人が嫌な意味で引くようなコンテンツは作ってないからな。お前のはただ人を不快にさせる暴露話ってだけだ」
A「暴露ではなく架空のお話なんだ」
B「なんにしても人を不快にさせてる時点でお前は漫才師失格だ」
A「漫才師に試験も資格もない。だからこそ失格なんていう言葉はありえない」
B「その発想が他の漫才師たちの地位を貶めてるんだよ。ルール通りですで通用する程甘くないし、ルールもそうだけど加えてマナーも守れないやつは少なくとも漫才をする上で人前に立ってはいけないんだ」
A「じゃあ漫才師は品行方正であるべきだというのかよ」
B「少なくとも俺はそう思う。出てきただけで嫌な気持ちにさせつようなやつは人前に立ってはいけないんだ。これは漫才師に限らずステージの上に立つ人間全般に言えることだ」
A「お前は品行方正なのかよ」
B「俺は別に品行方正ではない。犯罪こそやっていないものの、人間が出来ていると言えないからな」
A「それでも舞台に立つのか」
B「せめて人様が不快にならなければ良い」
A「さっきの品行方正のくだりはどこ行ったよ」
B「大丈夫だ。全部架空の話なんだからな」
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