第2話 エンマさま
健太は大福に会えて嬉しくて嬉しくて仕方ない。だが、そんな悠長な事は言っていられない。あの世から一刻も早く連れ出さなくてはいけない。そう思い生き返る薬「命の泉」と題した薬を大福に飲ませた。
すると……何と人間の美しいお姫様に生まれ変わってしまった。
……でも……よく見ると髪の毛から猫の耳がにょっきり出ていた。
「お初にお目にかかります。私は大福姫と申します」
生き返る薬「命の泉」が、どうも……ちゃんと機能していなかったらしい。これは一体どういう事?健太の腕前では生き返ると言うより、突然変異が起こってしまった。普通極楽に渡ると男も女も男にしかならない筈なのに大福は何故女に……?
あっ!ここで1つ言っておく。極楽は男ばかりだが、天女さんだけは女である。
一方の健太にも異変が起きていた。何と……天国に異世界転生した途端に16歳になっていた。これは異世界転生でよくあるパタ―ン仕方がない。それも何と紅顔の美少年になっていた。これは何とも幸運な事。今までは無視され軽蔑され誰も寄り付かなかったのに……。
「キャ―――――ッ!美しい王子様💛」
「今までは『瓶底眼鏡キモイ!』と変態扱いだったのに……チッ💢何だよ。ルックスが良くなったからって……この変わりよう酷くない?」
健太は今までは男子にも女子にも散々な扱いを受けて来た。髪の毛はボサボサで瓶底眼鏡の野暮ったいオタク気質な健太は、学校では変態の汚名を着せられ健太の半径5m以内に寄り付いた者は誰1人としていなかった。
(そんな俺が一体どういう事だよ「キャ―――――ッ!美しい王子様💛」って一体?)
こうして湖に自分を映してみた。
「おうおう何という美しい王子。これは一体……?」
★☆
死後の世界であるアストラル界:霊界(れいかい)は、「死後に霊ないしそれに類するものが行き着くとされる世界」、「死後の世界」
どうも……霊界は自分の思い描く通りになれるらしい。健太は思いも寄らない幸運が舞い降りて来て、有頂天になっている。
「ワァ嬉しいな俺このまま大福と一緒にこの霊界で生活しようっと。だって女の子からキャ-キャ-言われた事なんて現世では一度も無かったし……」
「健太はそれでいいかもしれないけどね、私元の猫に戻りたい」
「大福姫そのままが良いって……絶対に!」
だがそう言ったのも束の間、またしても大福に異変が起きた。今度は巨大な恐ろしい猫になってしまった。
「ギャアアア————————————ッ❕天台烏薬と需要強壮に良いブロッコリー、長芋、ウナギ、ニンニク、にら、玉子、etcをミキサーにかけて混ぜたのが悪かったのかなぁ。何でも混ぜ過ぎて巨体化しちゃった。これは困った現世に連れて帰れな~い」
★☆
大福が巨大化したので仕方なく霊界に暫くお世話になる事にした。こうして…エンマさまの前に通された健太は、暫く待合室の様な所で待っていたがお腹が空いて来た。するとその時、頃合いを見計らってエンマさまが次の部屋に移した。エンマさまは続けてこう言った。
「この料理を好きなだけ召し上がれ。ただし、そこにあるお箸を使って食べるように。飢えを満たしたものは極楽浄土へ。飢えたままのものは地獄へと堕ちるだろう。」
よく見ると料理の前には1メートルもある長いお箸がおかれてあった。腕よりも長いお箸を使って、いったいどうやって料理を食べればよいのか。健太に動揺が広がった。
「では今から地獄の食事風景と極楽の食事風景をお見せしよう。」
エンマさまが最初のカーテンを開けると地獄の人達の食事風景だった。先を争うように長いお箸で料理をはさむのだが、誰一人としてその食べ物を口にできる者はいない。
次にエンマさまが開けたのは、極楽の食事風景だった。長いお箸を使っているが、料理をはさむと自分で食べるのではなく、目の前の人の口にその食べ物を運んでいる。お互いに交互に食べ物を与えあっている。何ともなごやかな食事風景があった。
人々は安堵する。ああ、あのようにすればよいのか。これで自分は極楽に行くことができる、と誰もがそう思った。
だが、極楽へ行くための方法は、すでに教えてもらっているというのに。なぜ人々は地獄へと堕ちるのか?
一つ目のパターンは、ただひたすら食べさせてくれるのを待っている人。他者が食べ物を口に入れてくれた時だけ、その相手にも食べ物を差し出す人。しかし、次第に人々はその人の前を素通りする。こうして、その人は誰からも食べ物をもらえず、飢えたまま、人々を恨みながら、地獄へと堕ちていく。
二つ目のパターンは、とにかく与え続ける人。自分が食べ物をほしいので、相手の好みや都合も聞かず、とにかく誰彼かまわず食べ物を与え続ける。しかし次第にそのやり方があまりにも自己中心的なので、次第に人々は離れていく。こうして、その人は誰からも食べ物をもらえず、飢えたまま、人々を恨みながら、地獄へと堕ちていく。
三つ目のパターンは、取り引きをする人。今からこれをお前に食べさせる、その代わりお前は俺にこれを食べさせろ、という感じだ。一見もっともなことのようだが、態度があまりにも高圧的でうさん臭く、次第に人々は離れていく。こうして、その人は誰からも食べ物をもらえず、飢えたまま、人々を恨みながら、地獄へと堕ちていく。
気が付いてみれば、次から次へと人々は地獄へ堕ちていく。極楽へ生まれる方法はみんな知っているはずなのに、極楽へ行ける人は、まったくいない。
ところが不思議なことが起こり始める。いったん地獄へ堕ちた人の中から、あらたに極楽へと生まれる人が現れ始めた。いったい何があったのか?
極楽へ生まれる人には、ある共通した点があった。 それは、飢えたまま、人々を恨みながら、地獄へと堕ちていった人々が、実は地獄へ堕ちる原因は、他の誰でもない、この自分が作っていたのだということに気がついたという一点。
こうして自分のすがたを明らかに知った人こそが、新しく極楽に生まれていった。
「な~んか面倒くさいな。極楽に来たら女も男になり、女は天女さんだけで食事も、そんなに気を付けなくてはいけないなんて……」
そう言ったか言わないか一気に健太は地獄に落ちてしまった。
地獄の鬼が丁度落ちて来た人間を、沸々と煮えたぎった大きな釜に入れて押さえ込んでいる。だが、熱いので出てこようとするが、尚も大きな金の金棒で押さえつけ、煮えたぎった中に押し込んでいる
「ギャア————————————助けて——————————ッ!」
その時健太もその煮えたぎった大釜に落ちて行った。
「ギャアアア————————————ッ!熱いタタ助けてくれ——————ッ!」
どうしてこんな事になってしまったのか?健太と大福は無事に現世に帰れるのか?
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