二人の夢

「これは昨夜の夢の物語だ。私が――」


 パッ……パッ……ブツン。


「な、なんだ!?」

「きゃあっ!」


 蛍光灯が数回点滅し、やがて消えた。

 外はまだ夕暮れ時のはずだが、この部室、元はただの物置部屋。スペースもあまり無ければ窓も無い為、室内は一時的に暗闇に包まれた。

 

「みんな、落ち着いて」


 あまりに突然の出来事に動揺を隠せずにいる俺達だったが、それでも優は冷静だった。

やはり、優の存在は俺達にとって大きな物だろう。


「う……うぅ……一体なんなのよぉ……みんないるよね……?」

「雪乃! 大丈夫だ、俺はここにいるからな!」

「あんたは別にいいわ…」


 暗闇越しに大地のうなだれる姿を感じ取ると、俺もなんだか緊張が解けてきた。

 

「とりあえず」


 俺は手に持っていたスマートフォンの電源を入れ、小さな光が部屋に零れた。

 みんなもはっとしたのか、次々に電源を入れると、お互いの顔が認識できる程には明るくなり、怪談話には丁度良さげな雰囲気を醸し出す。


「す、少しは明るくなったわね――って、あんた近すぎ!」

「うごっ!?」


 低くて鈍い音と共にその場に崩れ落ちる大地だが、その目はまだ何かを諦めていない、そんな煌めきを感じさせている。


「そういえば舞、さっきから様子が変だがどうかしたか?」


 普段なら突然の出来事に驚きからかフリーズしてしまう舞だが、なにやら物言いたげな表情をしていたので話を振ると、舞は体をわなわなと震わせながら、


「よくぞ聞いてくれたぞ黒瀬よ!」


 と、スマートフォンを持っている手を一直線に伸ばしてポーズを取った。

 そのまま数秒どや顔をキープし始めたのだが、丁度光が当たる位置にいた二人に急かされ、訳を話し出すことに。


「実は、正夢を見たのだよ」


「なんでわかるんだよ~」と大地が嗤い、「舞さんもう怖くないですよ」と精神状態を気遣う雪乃。

 俺も正直頭にクエスチョンマークが浮かんでいるが、舞は依然として態度を変えずに続ける。


「この時点ではまだ信じられないはずだ。では、どんな夢だったかを話そう。テーマとは別の話になるのだが、私は昨日ここでの夢を見たのだよ。それも、今日と全く同じで発表会のだな。そして、白雪が渋り、私の番に。すると暗闇になり……」


「ちょっとまって!」


 舞の話に、途中から目を丸くして聞いていた俺達だったが、重要な所で優が遮った。


「どうしたのだ?」

「話の続きを当てるよ。そして、雪乃君と来夢の夢もね」


「「へ?」」


 雪乃と俺の声が被さり、大地は自分を指差しながら「俺は?」と聞こえてきそうな表情を浮かべていた。

 優は続けて、


「その話の続き……、暗くなった後、アナウンスが流れる。そして、二人の夢は僕が寿命を伝える夢、違うかい?」

「――――!」


 正直俺は絶句した。何故夢を正確に当てられるのだろうか、と。それは他の二人も同じようで、舞は硬直、雪乃は手で口を押さえて驚きの表情かおを見せている。


「もしかして、あってんのか?」


 完全に蚊帳の外となり、困惑しつつも苦笑いで聞いてくる大地に、「ああ」と素っ気ない返事を返す。

 どうして分かったのだろうか。

 もしかすると、今日の俺の行動を見ていて、勘が当たっただけかもしれない。


 いや、そう考えると……


 顔を上げると、優と目が合った。

 彼は全てを理解したような顔で微笑む。

 優に自分の心を見透かされている感じであまりいい気分ではなかった。

 きっと、悔しさからだろう。


「ねえ」


 自分なりの結論を探していると、不意に雪乃が沈黙を破った。


「どうした?」

「いや、大地じゃなくて。優に質問」


 優は一瞬目を丸くしたが、すぐにいつもの微笑みを浮かべる。


「僕に? なんだい?」

「なんだい、じゃなくて……その、私の夢も何故か知ってたってことは正夢のことも本当なの?」

「……嘘だと思うかい? なら、みんな一旦スマホの電源を落としてみるといいよ」


 何故再び暗転させるのか…………と疑問に思いながらも俺達は電源を落とした。

 当然、先程同様に部屋は暗闇に包まれる。


「これのどこが証明になるんだ?」

「今からだよ。舞ならわかるはず」

「あっあぁこれから――」


 舞がなにか言おうとした矢先、木琴を叩く音が廊下の方向から聞こえた。

 校内アナウンスは一時的な停電を伝え、俺達四人の沈黙と優の不適な笑みと共に、その放送を終えた。

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夢現研究部 今際たしあ @ren917

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