夢の世界へ

「…………あーめんどくさい」


 夢現研究部始動の2日後。

次の日が学校という学生の憂鬱な時間No.1ともいえる日曜の夜。

部屋には鍵を、窓はカーテンで覆われ、電気もつけず真っ暗となった部屋にポツリ、とPCの明かりが一つ。

来夢はカタカタと手慣れた手つきでキーボードを鳴らしていた。

彼は一体何を調べているのか。その答えは2日前にある。


◇◇◇


『猿夢』の映像をみた後のこと。

 通院中の明石優あかしゆうを除く黒瀬来夢くろせらいむ青葉大地あおばだいち白鷺雪乃しらさぎゆきの小紫舞こむらさきまいの4人は、小さな部室の真ん中にドカン、と置かれた机を囲んで座っていた。


 部室といっても、現在は使われていない物置小屋を綺麗にしているだけであり、内装は机と椅子、そしてアナログテレビといった質素なものである。

 そのため5人で集まることはあったものの、部室での活動は今回が初めてのことだった。


 映像が始まってものの数秒で椅子の下で震えだした雪乃を引き上げ、部の命名も終了した。

 そこで上げられた夢現研究部初活動は真面目にいこうとの舞の提案により、こんな状態になったのだ。


「では……初活動メニューの発表といこう」


 ゴクリ……大地の普段からは想像できないような真剣な顔に、周りの3人が息を飲む。


「初活動メニューは……その名にちなんで夢の研究だぁ!!」

「「…………で?」」


 3人共、同じ反応を向ける。


「いや、で? ってなんだよ!夢の研究だってば!」

「そうじゃなくてだな」

「具体的に何するのってことよ! だいたいあんたは…………」

「私は普段から調べてはいるのだが」


 雪乃の話を舞が遮る。

 雪乃は話し出すと止まらなくなるので、よく舞がストップさせている。


「具体的、か……じゃあ俺が研究テーマを決めるから、テーマにそった最高の物を頼むぜ!……あ、舞はいつも通りで構わないからさ」


 そう言うと、席を立った大地は満足そうに太陽のような笑顔をこちらに向けてきた。

 俺自信思うところはあったのだが、初めくらいはと文句の1つも言わず提案を飲むことにした。


 結局、5人分のテーマが決定し、月曜日の放課後にここで調べた結果をストーリーにして読みあうことになった。


 テーマは俺が怖い夢、雪乃が楽しい夢、舞が悲しい夢、大地がおもしろい夢。

 優には後で説明しとくから、と大地は颯爽と帰っていった。


 2人とも校門で別れ、帰宅した俺は徹夜でオンラインゲームを楽しみ、土曜日の昼は爆睡、夜になったらまたゲームといった不健康な生活を送った。


 そして――――現在に至る。

 目の下にはクマ、体は睡眠を欲している状態でブルーライトを目にし、明日のこともあり寝るに寝れない状況での作業に多少の苛立ちを覚えながらも、面白そうなネタを発見する。


「えっと…………『夢 怖い』っと。お、なんだこれ。面白そうじゃん」


 検索結果の一番上には怖い夢を見る方法が記載されていた。その方法は至って簡単で、部屋の4隅を見てから寝る。

 たったそれだけのことだった。


 既に思考が限界を迎えていた俺は、迷うことなくその方法を実行することにした。


 思えば、この検索こそが全ての始まりだったのかもしれない。


「っくそ! これじゃできないじゃないか!」


 部屋の右隅に設置された本棚をどうしても動かすことができず、明日大地に謝ろう、と心に決めて来夢は眠りについた。


 その頃部室では。


 ジジジジ...ブンッ

 誰もいないはずの部室の中にあるパソコンが勝手に立ち上がる。

 画面には文字が浮かび上がる。


『ようこそ――――――』

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