夢現研究部
今際たしあ
猿夢から始まる夢現
「次は~コロッケ~コロッケです」
体を座席にしっかりと縛られた私の耳に、車内アナウンスが届き、心臓を素手で捕まれたような悪寒、冷や汗に襲われる。
後ろを振り向けば二つの肉片。
次の標的は―――などと、考えたくもない。
後ろにあるさっきまで人
コロッケ――強烈な悪寒が背筋を撫で回す。
ガコンッという電車の揺れにより、後ろの車両と繋がるドアが開いた。同時に「キュィィン」という不安を煽る音が車内に鳴り響く。
(お願い...!早く覚めて!)
普段なら神経を研ぎ澄ますことで目が覚めるのだが、何度祈ろうと夢から脱出できず、気づけば金属の擦れる音がすぐ後ろまで迫っていた。
(覚めて!覚めてよ!!お願いだから!!!)
全身を震わせながら必死になって懇願する。
人は『死』を間近に感じて平常心を保っていられない。
研ぎ澄ました神経は全身に恐怖信号を送り、もはや祈ることしか出来なかった。
(お願いだから覚めてよ!!......あれ...)
体中汗まみれ、顔は涙でぐちゃぐちゃとなった状態で必死に祈りを捧げていると、いつしか「キュィィン」という音は聞こえなくなっていた。
だが、体には少し重みを感じた。
(よかった...もしかして、疲れのせいかな...)
―――先程まで固く閉ざしていた目をゆっくり、ゆっくりと開く。
キュィィィィィィィィンッッ!!!
眼前には体を押さえつける無数の小人、そして赤色の液体を撒き散らしながら回転している刃。
赤色の液体を顔に浴び、かなりの風圧を感じたところで心は完全に折れ、死を覚悟したところで目が覚めた。
私は全身びしょ濡れで、目からは安堵により涙が止めどなく溢れた。
「お、おかーさーん...」
隣で寝ている母親を呼び、ふらふらと部屋のドアを開ける。
ガチャ。
「逃げられると思ったんですか~?」
◇◇◇
「来夢!どうだ?怖かっただろ!?」
「まあ多少はな」
「なんだよーつまんねーの。他のやつらを見てみろっての。ほら、雪乃なんてケツ突きだしながら頭だけ隠してやがるぜ?」
そう言って俺にニカッと太陽のような笑顔を向けるこの男は名を大地と言い、昔からの腐れ縁である。
低身長に丸坊主という昭和の野球少年感を漂わせる見た目をしているが、中身は運動はからっきしの都市伝説オタクであり、この部活創設の張本人である。
ちなみに部活の名前はまだない。
「うぅ…………変態! 大地のばかぁ!」
大地を罵倒するが、頭を隠した四つん這いのポーズをやめないこの女生徒は雪乃。
彼女は見る者を魅了する容姿をしており、この部活の華と言っても過言ではない。
現に大地がよく凝視している。
黒髪ポニーテールに一撃必殺の笑顔……一つ欠点があるとしたら、気が強いくらいか。
「舞さんも何か言ってやってよ!」
「……………………」
「あれ、どうしたの? いつもなら――って…………」
「ぎゃはは、舞のやつ、気絶してやんのー!」
この部活の部長を務め、普段は凛とした表情で毒を吐くというギャップを持つ舞。
本人曰くホラーに耐性がないらしいが、それでも毅然とした態度で研究を進める姿には目を見張るものがある。
だがさすがにこれには耐えきれなかったみたいだ。
普段はこの四人に加え、優という気弱な男子生徒を含めた五人で活動をしている。
優は体が弱いため、今現在も病院へ通っているところだ。
「そんなことより大地、さっきの映像は一体なんだ?」
「よくぞ聞いてくれた!あれはな...部活の名前発表に伴った映像であーる!」
「いやいや、ただのホラー映像じゃん」
「確かに」
「いいから聞けよな...コホン、えーでは発表します」
「おう」
「名前は……
「「夢現研究部??」」
「貴様の小さな脳にしては上出来だな、"ゆめうつつ"と呼ばない所に微妙な馬鹿さを感じるがな」
いつ復活したんだ、舞よ。
みんな納得しているし、まぁいいか……。
さぁ、俺達の研究のスタートだ。
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