第93階層 視線
最近、やたらと視線を感じる。
振り返ると、大体、こちらをジッと見つめるクレスフィズ皇子と視線が合う。
なんだろうか。
やはり、この間の失言が原因だろうか?
なにやらオレがダンジョンと意思疎通が出来ると言う噂になっている。
なので、それを隠れ蓑に、前世知識を隠すことを止めたのだが。
全部ほら、ダンジョンから聞いたって事にすれば、万事オッケーじゃね?
その過程で、空の向こうには何があるかの問いかけに答えた訳だ。
だがしかし、全知全能と言われるダンジョンさんでも空の向こうの事までは知らなかったそうだ。
だから人工衛星などを打ち上げようと思ったのだろうか。
オレの知識を吸い取ったのなら、情報ぐらいは持っていると思っていたのだがなあ。
宇宙は彼らの魔法力が届く範囲外なのかも知れない。
というか、なんでアクレイシス女王が日本語を知っているんだ?
そういや、オキクさんも日本語に反応する事があったな。
もしかしてはやっているのか日本語。
そんなわきゃねえだろ。
心当たりがあるとすればイースチルドレンの連中なんだが、彼らとアクレイシス女王が接触したと言う情報は入ってきていない。
ガー様には頻繁に会っているようだが、彼女は日本語を教えている時間などないはずだ。
まあ、そんな事よりも今はクレスフィズ皇子の方だ。
その事をどういう風に捉えたらかは知らないが、あれからずっと、気が付けばこっちを見ている。
「どう思います、アレ?」
「何の事だい?」
「アレ、クレスフィズ皇子」
今はアクレイシス女王とともに、ロケットの打ち上げ現場に来ている。
小麦の収穫も終わり、いよいよ、本腰を入れて人工衛星を打ち上げる準備に入る様だ。
そこで意見を聞きたいと御呼ばれされた。
「なんで、あんな所で隠れてこっちを見ているの?」
不思議そうな表情でそう聞いてくる女王陛下。
こっちが聞きたいですよ。
最近、毎日ですよ。
部屋から出ると、ずっと後を付けてくる。
ストーカーかよ?
「もしかして皇子もイース君の事を……」
「ふむ……」
「いや、ほら、なんだ、好きになったとか?」
相手は男だぞ?
あと、恋する瞳は決してあのような人を値踏みするような視線ではない。
「君は恋する瞳を知っているのかね?」
なにやらジト目でそんな事を言ってくる女王陛下。
いや、知らないですけど。
知らないですけど、アレは絶対違うと思う。
まあ、後で事情は聞いてみるよ、と言う女王陛下。
「それよりも今はこっちだ」
ロケットの問題点。
小型のロケットなら、落ちてくる事がなく、宇宙まで到達したと思われる物も出て来た。
しかし、人工衛星を積むほどの大きさになると、どうしても途中で推進力が落ちてしまう。
そもそも、ロケットを打ち上げるには特殊な燃料が必要となる。
いくらガソリンを加工しようとも、それだけで飛ばすには無理がある。
ただ、小さいながらも、宇宙まで行けたやつがあるという事は、その燃料もある程度は開発が進んでいるのだろう。
となるとだ、多少、技術が必要であるが、多段式、のロケットを開発するのも良いかもしれない。
「多段式……?」
そうだな……オレはテーブルの上に置いてあるカップとティーポットを見やる。
そう言えば最近、オキクさんも忙しいそうであまり姿を見せないんだよな。
今までずっとベッタリだったので、少しだけ寂しくはある。
告白の返事も結局しないままだから、愛想を尽かされたのだろうか?
「イース君……?」
「ああ、いえ、ちょっと、メイドのオキクさんが最近は来ないなと……」
そう言うと、顔をゆがめる女王陛下。
おっと、妻の目の前で他の女性の話をするのはご法度でござるな。
妻と言って良いかどうかは微妙ではあるが。
オレは三つのカップにティーを注ぐ。
そしてそれを重ねる。
「この三つを重ねたコップを持ってみてください」
「ふむ……」
どうです、重たいでしょ。
これがロケットだと仮定します。
そして、中に入っている物が燃料だと仮定します。
そしてオレはそのうち、一番下のティーカップをとり、中に入っている物を飲み干す。
「さて、これで燃料が空になりました」
その空になったカップを元に戻す。
たとえ空になったとしても、まだまだ重たい。
だが、このカップが無くなれば?
一番下のカップを取り外して女王に渡す。
「確かに軽くなった」
2段目も同じようにして、最後に一つだけのカップを渡す。
「なるほど、燃料を使い切ったタンクを順次、切り離していくと言う訳か」
「そういう事です」
単段式ロケットの方が簡単で、技術が低くても作成は可能だ。
だが、多段式ロケットともなると、切り離し装置の設置や遠隔操作が必要となる。
また、切り離した際に姿勢が変わる可能性もあり、姿勢制御の為に細かい調整が出来るようにしなければならない。
正直、今のレベルではお勧めしないのだが、行き詰っている現状、違う視点で物を考えるのもありだろう。
「良し分かった! 早速、議題にあげるとしよう!!」
あとは、そうだな……私も少しは休みを取るかな。と呟いている。
ぜひ、そうしてください。
趣味にのめり込むは良い。
だけど、それで体を壊しては元も子もない。
食事と同じですね、何事も適分適量が大切ですから。
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