第94階層

 多段ロケットの開発にはかなりの期間を要するだろうと思っていたのだが、翌日、準備が整ったので打ち上げ現場に来て欲しいと言われる。


 いやおめえ、うっそだろ?

 昨日の今日だぞ?

 できる訳がねえ。


 打ち上げ現場に行くと、何やらコントローラーを渡される。


 ナニコレ?

 これ、例の戦闘機ドローンを動かすためのゲームパットだろ。

 えっ、この4つのボタンが4体の戦闘機ドローンのブーストボタンになっている?


 だから?


「良し! それでは始めるぞ、カウントダウン開始!!」


 は?


 オレの目の前にパネルが開く。

 そこには、空を映す映像、ロケットの姿勢を現したかの様なモジュール、地上からロケットを映した映像、といくつかの場面が映し出されていた。

 そして始まるカウントダウン。


 いや、ちょっとおまえら、説明しろよ!


 ハーキャットさんが『ガンバレ!!』というアニメキャラのスタンプを表示させる。

 メイクィースさんも『ジカンガ、アリマセン』と日本語で言ってくる。

 なんの?


 えっ、もしかしてコレ、ヤバい奴じゃね?


 メイクィースさんのダンジョンの最深部の一室、朦々と立ち込める煙、上空では日本円ダンジョンの縦穴にある、ドーム状の屋根と繋がっている。

 広がったその屋根の向こうに広がる空に向かって、0と大きく表示された数字を突き破ってロケットが発射された。

 そのロケットがメイクィースさんのダンジョンを超え、日本円ダンジョンの屋根があった場所から出現する。


 さらに上空へ昇って行く、その高さが雲を突き抜けた時、それは起こった。


 ロケットの下部が突然、爆発したのだ!

 一瞬、あっ、これは失敗したな、と思ったのだが、そうではなかった。

 その爆発の勢いで、さらに加速する、ロケットの残りの部分。


 なるほど、切り離し装置の設置が難しいなら時間で爆散させるように設定した訳か。


 なんて事を考えやがる。

 そういや前世でも、原子力ロケットなるものが考案されていたと聞く。

 核爆発による反動を利用して推進するロケットだとか。


 一気に加速を増し、さらに2段目のブーストも点火される。


 だが、当然、そんな力業じゃ姿勢制御など出来る訳がない。

 画面に映るロケットのモジュールが傾き始める。

 オレは慌てて手に持ったコントローラーのボタンを押す。


 つってコレ! どのボタンが、どの角度を変えるんだ!?


 なんでコレをオレに渡すんだよ!

 知っている奴に渡せよ!!

 とにかく、色々ボタンを押してなんとか姿勢を垂直に保とうとする。


 そしてさらに、2段目のパーツも爆散する。


 軽くなった残りの部分、そんな軽くなった物を爆発の威力で射出するればどうなるか。

 ええ、錐揉み状態になる訳ですよ。

 目の前に映る画面はグルグル回って、もう何がなんやらさっぱり分からない。


 ロケットのモジュールもクルクル回転して、姿勢制御など出来ようもない。


 ハーキャットさんが無数のスタンプを出して応援してくれるが、むしろ邪魔です。

 周りの人達も、固唾を飲んで静まり返っている。

 ただ、ハーキャットさんのスタンプを出す音と、オレがコントローラーのボタンを押す音だけが響き渡っている


 くっそ、もう、どのボタンを押してもかわりゃしねえ!


 一瞬、ロケットのモジュールが垂直な状態に立ち戻る。

 その時、オレは4つのボタンを同時押しする。

 行っけぇええ~~~!!


 と、心の中で叫びながら祈りを捧げる。


 その祈りが届いたのか、画面に映っている青が黒色に変色する。

 そう、ついに―――――ついに! 空を突破して、宇宙に出たのだ!!

 ただ、どこからも歓声が上がらない。


 辺りを見渡してみると、皆、がっかりした表情を見せている。


 ふむ…………もしかして、ブラックアウトしたのかと勘違いしているのか。

 オレはハーキャットさんの方を見る。

 ハーキャットさんとメイクィースさんはキラキラした瞳でその真っ暗な空間を見つめている。


 視点、変えられませんかね?


 ハーキャットさんがオレの方を見るとコクリと頷く。

 そうして真っ暗な画面に、徐々に、徐々に、青い水平線の様な物が画面端から現れる。

 そして、最後には青く輝く地球が、その全貌が姿を現す。


「コレは、一体、何なのだ……?」


 初めて見る、その美しい光景に、皆、棒立ちである。


「これがこの大地、この世界、この星の本当の姿ですよ」

「そんなバカな! 丸いじゃないか!?」

「ええ、世界は―――――丸かったのですよ」


 地球は青かった、じゃなくて、地球は丸かった、な感想が出てくるのが、この世界の人々らしい。


 前に一度、ハーキャットさんが地球儀を表示させていたが、その時はあまり気にしなかったようだ。

 天動説さえまかり通っているこの時代。

 地球が丸いなど誰も知りはしない。


「そんな……こんな事が……」

「本当に、空の向こうは、こうなっているのか……?」

「馬鹿な! ありえない!! こんなの世界の裏側に居る者はどうなってしまうのだ!?」


 さて、重力の講義が必要ですかね?

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