第90階層

 なんでも、学科の一つに神学と言う物があるらしい。


 そこでは、イース・クライセス教という宗教を学ぶ時間になっているそうだ。

 ナニソレ?

 初耳なんだが。


 なんで、誰もかれもオレの名前を付けようするんだ?


 また、勝手にオレの名前を付けて妙な事を始めているのか、と思ったのだが、それどころじゃなかった。

 なんでもそこでは、イース・クライセスなる人物は神の子であると説いているそうだ。

 ガチでヤバい宗教ジャン!


 しかもこの学科、全てのコースで必須科目になっているそう。


 まあ、こんな事を始めるのはアイツ等しか居ない。

 教育関係のほとんどの権限もアイツ等が持っている。

 カリキュラムに神学等をねじ込むのは、まあ分からない事は無い。


 道徳・倫理等の授業も、まあ必要な科目だ。


 だが、嘘を教えたらアカンだろ。

 とはいえ言って止まるような奴らじゃない。

 そうアイツ等――――――イースチルドレンと言われている子供達。


 と、言う事でウドゥの所へ相談しに来ました。


「だから止めとけって言っただろ?」


 いや、警戒はしていたんですよ?

 教師として要請するにあたり、うちの暗部を張り付かせ、少しでも危険な実験をしていたら報告する様にしていた。

 ちなみに、その暗部の方に、なんでそんな学科を作っているのを報告していないのって聞いたら、本当の事を至極当然に言って何が悪いんですか。と既に洗脳済みでござった。


「その危険な実験での報告すら上がって無かったんだろ? 良いか、この世の中で、何の異常も無い、って言うのが一番、異常なんだよ」


 前世でも聞いたなあ、そのセリフ。


「そもそもアイツ等は最終的に何を目指していると思う?」

「科学の発展した便利な世の中でしょうか?」

「ハッ! そんな愁傷なモノだったら俺だって逃げ出さねえよ」


 良いか、奴らはな、経済と思想で世界を支配しようと本気で考えていやがる。

 奴らが作っている物は目的ではなく、唯の手段でしかねえ。

 作った物を売って、経済を支配し、支配した経済を元手に思想も支配する。等とおっしゃる。


 ふむ……前世のユダヤ人かな?


「もっと早くに教えてくれれば良いのに……」

「俺も奴らには睨まれたくねえからな」

「どうしたら止まりますかね?」


 まあ、別の事に興味を反らすしかねえだろうな。とウドゥさんは答える。


 となると、やはり、例の設計図でしょうか?

 電子機器が必要な部分は軒並み不可能だから、再現するのには時間がかかる。

 その上、授業に穴を空けない事を約束させれば、当分の間は忙しくてそれどころでは無いだろう。


 …………その後が怖いが。


 オレですら魔道具を利用してベルトコンベアを動かす事を思いつくんだ。

 電子機器の代わりに魔法を組み込むなんてアイツ等なら普通にやりかねない。

 見せるべきか……見せざるべきか……


 どう思う、ウドゥさん。


「どっちにしろ、早いか遅いかの違いだと思うぜ」


 ですよねえ。


 とりあえずガー様を呼び出して交渉してみる。

 ガー様は、意外に早くバレましたね、さすがに皇帝陛下までは口留めできませんし……、等と確信犯的な事を言っていた。

 とにかく、神学はさすがにやり過ぎだから、これを暫くの間、貸し出すので抑えて頂けませんか。と言う交渉を行う。


 かなりの分厚さがある設計図だ、書き移すだけでも数か月はかかるだろう。


 と思っていたら、真っ先に写真機のページを見て、これから作りましょう、等と言っている。

 …………時間稼ぎも、あんまり意味がなさそうだな。

 その代わり、神学の授業に付いては完全に撤廃する事を約束して貰う。


(思想と言うのは禁止されればされるほど燃え上がるのですがね)


「何か言いましたか?」

「オホホ、何も言っていませんことよ」


 忙しくなりますわね、と言って、慌てて部屋を出て行くガー様。


 もしかして、早まっただろうか?

 いや大丈夫だ、さすがのイースチルドレンと言えども、あの設計図を再現するには一生ものの時間が必要だろう。

 せめてオレの存命中ぐらいは平和で居てくれるに違いない。


 …………無理かなあ、無理だろうなあ。


「私は早まったと思いますね」

「右に同じく」

「与えちゃダメな奴に、与えたらダメな餌を与えたな」


 そう思っていたなら先に言えよ……


 そして、さらに気が重い話が舞い込んできた。

 久しぶりにお義父様、ようはカーラード王国の元国王陛下から御呼ばれがあったのだ。

 神学の事があっちにもバレたのかな?


 まあでも、今は中止したから大丈夫、と思って気軽に向かったのだが。


「未だ女王陛下の懐妊の話が聞こえて来ない、どういう事だろうか?」


 等と言われる。


 どういう事も何も……そういう事をしていないからでは?

 えっ、後継者を生み育てるのは貴族の義務だって?

 でも、そんなに急がなくても良いのではありませんか?


 陛下もお子様が出来たのは遅かったと聞いていますし。


「作らなかった、のではない、出来なかった、のだ」


 特に、王族ともなれば代替わりも見据え早めに子を成さねばならぬ。


 二十歳を超えても、子が居ないのと言うはまずありえない出来事だと。

 余りにも歳の差が開くと代替わりに支障が起きる。

 特にこの世界の寿命は短いのだ。


 等と仰る。


 確かに、早ければ30歳で引退、遅くでも40までは無理と言われているこの時代。

 早く子供を設けなければ、下手したら一桁台で王様になる事になる。

 アクレイシス女王陛下の後の事を考えれば、今すぐ子供が出来ても遅いぐらいだ。


「子が出来ない辛さは良く分かる、良ければ相談に乗るぞ。そうやって苦労して出来た子が女の子であったからこそ、男と偽ってしまったのだ」


 えっ、それは設定の話だったのでは?

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