第89階層 夢見る集合体
冒険者なんて言うのは夢見る集合体だ。
自分の命をチップに未だ見ぬ世界へと旅立った人達。
一攫千金もまた、彼らの夢の一つでしかない。
そんな夢見がちな彼らに、空の向こう、宇宙へと旅立つ夢を与えればどうなるか?
この女王陛下、宇宙への有人飛行は冒険者の中から選ぶと、明言した。
何分、初めての事だ、丈夫な体と、何者にも負けない強い精神。
臨機応変に対応できる行動力。
そう、冒険者のトップ、日本円ダンジョン最深部を潜るトップランカーを最初の有人飛行士に任命する事に決めたそうだ。
確かに、最高ランクの冒険者なら、少々の事では死なないだろう。
ロケットが爆発しても、そこから生還するかも知れん。
それほど彼らは異常な存在だ。
夢がある、力がある、やる気がある、ある意味、宇宙飛行士にはぴったりかも。
そんな話がダンジョンから一時帰還した子供達から各地へ流れる。
空の向こうへ飛び立つ、円錐状の物体。
今はまだ実験段階だが、それが実現するのは遠い未来ではない。
そうなると冒険者達もこぞって日本円ダンジョンに集まり、苛烈な競争が始まる。
最初の有人飛行士になれなくとも良い、冒険者として高い能力を備えていれば、いずれは自分もお呼ばれされるはずだ。
そう考えた冒険者達が次々と集まって来る。
また、すでに一攫千金を手にして、くすぶっていた者。
そのようなお方達も、新たな夢を目指して立ち上がる
ただ、その所為で困った人達も現れる。
そう、そんな冒険者達が集まっていた、ダンジョンを中心に栄えていた迷宮都市。
誰もダンジョンに行かなくなったので、経済が停滞してしまったと言う。
そこで女王様が一言。
「そんなダンジョン潰してしまえば?」
ひどい事をおっしゃる。
だが、それには続きがあった。
要はそこのダンジョンコアを用いてリニアモンスターカーの直通線路を引き、ロケットや魔道具の制作を担う工業都市に変えてしまえば良いと。
去った冒険者を引き戻すのは、至難の業。
ならば、新たな産業を目指せば良い。
今のダンジョンに頼った経済より、もっと儲かるぞ、と嘯く。
そこで迷宮都市の有力者を集めて、ロケットの試作品を飛ばして見せる。
さらに、メイクィースさんからもらった設計図を基にした幾つかの作品を見せる。
「これは売れるぞ!」
「素晴らしい! この自転車など、世界中の人々が欲しがるに違いない!!」
「そう今だ、今なら、君たちがこれらの、先駆者となれる可能性を秘めているのだよ」
そう言って煽る煽る女王陛下。
皆さん興奮した面持ちでその話を聞いている。
さっそくダンジョン潰すぞ~って、号令が掛かっている。
冒険者の宿も全部潰して工場にしてやる、と言っている人も居る。
よっぽど冒険者に捨てられて悔しかったらしい。
その時に思ったわ。
これが時代を変えるヒステリックトリガーと言う奴か、と。
良いか悪いかはともかく、この女王様の名は歴史の中に燦然と刻まれるであろう。
さて、そこで焦ったのがグランサード帝国の皇帝陛下。
カーラード王国に遅れてならじと、自分達もアクレイシス女王に習い日本円ダンジョンに人を集める等と言う。
いやいや無理だから。
帝国の国土はカーラード王国の数倍もあるのだよ?
そこに住んでいる人の数なんて数倍どころじゃすまない。
そんな人員を収納できるスペースはどこにも無い。
えっ、ここはグランサード帝国の皇都でもあるのだろうって?
カーラード王国ばかり、ずるいぞ、と言われましても……
と、思っていたら大量のダンジョンコアを担いで持ってくる。
いや~凄い数っすね。
ええんすか、ホントに?
さすがのハーキャットさんも喜ぶと言うより困惑されている。
なにせ持って来た数は優に100は超えている。
さすがアメリカ様はスケールがビックだぜ、いや、アメリカじゃないんだけども。
その持って来たコアで拡張すると地上にある小麦畑を超える範囲になった。
ダンジョン内の移動ですらリニアモンスターカーが欲しいぐらい。
近場にあるダンジョンの所為で、ある程度以上広げられないと言うので、それらを攻略してまわり更に広げる。
平地以外の場所へダンジョンを広げられたおかげか、新しく増えたスポーツドリンクは、回復効果が付いていた。
おいしく頂けて怪我も回復する、と大人気だ。
スポーツドリンクなら飲みやすいしね。
まあもちろん、その分、割高なんだが。
人もどんどん増えていく。
帝国から来た人達も最初は嫌々ながらも、少し住んだら案の定、もう戻りたくないと言い出す。
各部屋に映るスポーツ観戦には熱狂するし、リアルタイムでロケット打ち上げの失敗を見た人は、我こそが成功に導いて見せると、気合を入れて勉学に打ち込み始める。
子供達と一緒に来た大人達は、地上で農耕か、地下でダンジョン探索を行って貰う予定だったのだが、自分もロケット開発に参加したいと言い出す始末。
そんなにロケットが良いかねえ。
地下のダンジョンも広がったので、頑張って稼いで来て貰わないと駄目なんだけども。
そんなある日、皇帝陛下がオレの部屋を訪ねてくる。
「多くの人が勉学に励むようになった、各部屋にあるモニターでリモート学習等と言うのも、画期的で少ない教師で学業を回していける」
さすがはイース卿だ、卿がいなければ、どの様な目にあっていたか分からない。
等と、やたらとヨイショしてくる。
そんなのをダラダラと一時間程度聞かされる。
何? なんなの?
今度は、どんな要望(無理)を出してくる訳?
もうお仕事は一杯ヨ?
人間は24時間、戦えるように出来てないんダゾ!
「このダンジョンを、いや、世界を発展させているのは紛れもなくイース卿だ、そうイース卿なのだが……」
ようやく本題に入る様だ。
「その、なんだ……だからと言ってだな――――――自分は神に等しい存在だと言う、教えを広げるのはどうなんだ?」
は?
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