第86階層

 メイクィースさんのダンジョンの最深部へ再び向かう。


 そこでは怒りのスタンプを連発しているハーキャットさんと、腕を組んでソッポを向いているメイクィースさんが居た。

 結局のところ、ブレスの微調整でも上手くはいかず、推進力を失って落ちて来た。

 最終的に地上に落ちる前にメイクィースさんがブレスで粉々に爆破する羽目になった。


 ハーキャットさん、さすがに3日で作ったロケットをまともに飛ばすのは無理がありますよ。


 失敗は成功の母とも言いますし、とりあえず、今回は飛んだだけも良しとしませんか?

 そう言うと、落ち着いたのか『次を作って』というアニメキャラのスタンプを表示させる。

 まあ、そう言う事は、このままメイクィースさんのダンジョンは現状維持でおkって事ですかね。


 暫くすると女王陛下がやって来て問いかけてくる。


「なんとなくやりたい事が分かったよ、ようはあの鉄の塊を空の彼方へ飛ばしたいって事かね」


 その通りであります。


「しかしブレスで微調整と言うのは無理じゃね? そんな事するぐらいなら、あのドローン戦闘機をくっつけりゃ良いんじゃないかい」


 ふむ……女王陛下の言う事も一考の価値はあるか。


 ロケットの四方にくっつけて、傾きそうになったら、エンジンを掛ける。

 補助エンジンとして利用出来るし、ある程度、ドローン戦闘機で上空まで持ち上げてからロケットに点火するのも有りかも知れない。

 電子制御が出来ないのなら地上から発射する意味も薄い。


 数うちゃ当たるとも言うし、何度が試してみて調整していけば良い。


「まあ、そうなると、二人の協力が必要となりますね」


 オレがそう言うと、ハーキャットさんとメイクィースさんが顔を見合わす。


 ハーキャットさんが『真似しのお猿さんめ』というアニメキャラのスタンプを表示させてプイッとソッポを向く。

 メイクィースさんも『サキニ、マネタノハ、オマエタチ』等と言って対抗する。

 まあ、ダンジョン同士が手を取り合うなんて前代未聞の話。


 急に仲良くとは言っても、うまくはいきまい。


 むしろ仲良くなって、協力して向かって来たら堪らない。

 少しぐらい、仲が悪いのでちょうど良いのかも知れないな。

 しかし何故、人工衛星などを打ち上げようと思ったのだろうか?


 作った物を取りこむのではなく、そもまま打ち出しても、ダンジョンの養分にはならないだろうに。


 仮に、打ち出した人工衛星と魔力的な繋がりが出来たとしても、すでに世界地図が描けるぐらい世界を知り尽くしいるのだ。

 今更、宇宙から何を観察すると言うのだ?

 まあ、どちらにしろ、そうそう簡単に人工衛星は打ち上げられまい。


 科学技術のみで打ち上げようとするなら、せめて航空力学の基礎ぐらいは得られなけば無理だろう。


 とはいえ、ドローン戦闘機の様に、魔法を併用すれば力業でなんとかなる部分も出てくる。

 じっくりと腰を据えて開発すれば、遠からず、人工衛星を打ち出すぐらいは出来るだろう。

 軌道に乗せられるかどうかは別だけど。


「良し! プロジェクトチームを作ろう! リーダーは私がやる!!」


 等と、隣の女王陛下が仰る。


 ふむ……これは上手く使えるかも知れない。

 人工衛星の打ち上げだ、よっぽどの偶然が重ならない限り、そうそう成功はしない。

 となるとだ、数年はコレに女王陛下を括り付けていられる。


 ダンジョンのお二人も、人工衛星の開発だと言えば、色々と便座を図って貰えるかも知れない。


「良いですね、魔法と科学の融合の為にも広くメンバーを集め、ゆっくりと腰を据えて開発していきましょう」


 良し、これで暫くは平和が続くな。と思っていたのだが、オレは少々この世界の人々の欲求を甘く見ていたらしい。


 この世界の住民、たとえ貴族であったとしても、生まれた土地から一度も外に出ずに死んでいく人が多い。

 道中ではモンスターに襲われるし、馬車の乗り心地も最悪だし、観光地なんてモノもある訳が無い。

 だが、見果てぬ世界に旅立ちたいと思う人々の心に、前世も今世も変わりは無い。


 その一部を実現したリニアモンスターカー。


 そしてさらに、今度は宇宙等と言う、誰もが到達した事の無い神秘の世界を目指す。

 そうなるとですね、抑圧されたその欲求が爆発した訳ですわ。

 ただでさえ、我が日本円ダンジョンに通っている学生たちは、リニアモンスターカーに魅せられて集まった者も多い。


 アクレイシス女王がそんな中で、成績優秀者や、熱意の有る者をプロジェクトメンバーに加える、なんて言うとどうなるか。


 皆さん、死に物狂いで勉学に励むようになる。

 宇宙を目指すメンバーの一員になれる。

 もしかしたら、宇宙へ行く事も出来るかも知れない。


 そして、最初に宇宙に行けば、当然、歴史に名前が刻まれる。


 となるとですね、今まで勉学に見向きもしなかった脳筋だって勉強を始める。

 特に冒険者という奴らは、その欲求が強いが為に、生まれた土地から危険を承知で旅立った者も多い。

 さらに、必要なのは頭が良い奴だけじゃない。


 ロケットを作ったり、機材を運ぶのにも力が居る。


 勉強が苦手な人も、少しでもプロジェクトに関わろうと、下働きでもなんでもしようとする。

 また、日本円やアメリカ$も大量に必要だ。

 アクレイシス女王はその辺りを上手くコントロールし、プロジェクト内に幾つかの部署を作り、人工衛星開発為の行動だと言う大義名分で人を動かす。


 同じ日本円を回収する行動であったとしても、プロジェクトの為に、と言う頭文字が付くと、とたんやる気が変わって来る。


 わずか一週間で2号機が出来たと聞いた時は、あっ、この平和は長く続かないな、と思ったものだ。

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