第82階層 お手紙は正しくだしましょう

「何やらかしたの君? グランサード帝国の人達が血相を変えて私に泣きついてきたよ」


 そう言ったアクレイシス女王の手には、オレがグランサード帝国に送ったとある書簡が握られていた。

 それはオレが、グランサード帝国宛にとあるダンジョンのダンジョンコアを貰い受けたい、と言うのを出来るだけ相手の気を逆なでしない様に気を配って書いた物だった。

 オクレと言って、はい、あげます。と簡単に貰える物でもないだろうし、本来ならこんな事をお願いする事自体が常識外れなんだが、うちのハーキャットさんの要望なので、とりあえず形だけもとお願いした感じだ。


 ここからなんらかの交渉が始まるかな、と思っていたのだが、いきなり女王陛下に話が行くとはどう言う事?

 もしかして、王配ごとき、しかももうすぐ2番手(笑)が、我らに要請など片腹痛い。

 話があるなら女王を通せ。って事なのかな?


「なんでも今の季節が終わる前に差し出せとか、差し出さなきゃ、人質にしている皇帝陛下達がどうなるか分かってるんのか、みたいな脅しが書かれていたとか」


 そんなもん書いてねえよ!


「いやだってほら、便箋数枚にも渡って季節の事柄を書いていたり、皇帝陛下達をやけにヨイショした作文が入っていたりしているじゃん」


 ふむ……?


 前世の記憶では、大昔の貴族では信書のやり取りの際、長ったらしい季節の挨拶や近状などを数ページに渡って手紙の量を水増しし、実際の要求は数行で済ます、みたいなのがあったので真似てみたのだが……

 どうやらそれを脅しと取ったらしい。

 深読みしすぎだろ?


 というか、この世界は違うのか?


 あんまりお手紙を貰った事が無いんだよなあ。

 と言うより、皆さん、何故かオレに直接何かを言ってくる事が少ない。

 大体、兄上達を経由したり、意図的にファリスさんに情報を流したりしている様なのだ。


 もしかしてオレって、世間では結構、危ない人だと思われている?


 ボルヴェイン兄上ですらオレが一番の問題児だと誤解していたしなあ。

 自分では穏健な人間だと思っているのだが。

 確かに、あまり人とは話をしないけどさ。


 そもそも今回だって、お手紙を出すのには反対だったんですよ?

 でもハーキャットさんが煩いので……

 正直、態々こちらから攻めていかなくても、と未だに思っている。


 ドラゴンさんも満足して帰って行った様だし、今後は襲って来ないかも知れない。

 オレは基本、保守的な人間なのだ。

 そんなに心配なら例のドローン戦闘機を増やせば良いだろ。


 操作方法は簡単なんだ、教えればすぐに上達もする。


 ハーキャットさんにそう言ってみたんだが、頭の上に『10個!』って言う、アニメキャラのスタンプを表示させる。

 何の事かと聞けば、どうやら、あのエネルギーボール一つで、魔石10個分のエネルギーが必要だそうだ。

 そしてそれで行動出来るのは5分にも満たない。


 燃費、悪すぎだろ?


 それに魔石の回収については、現在、とある問題が発生している。

 いや、この問題、実は良い意味でもあるのだが。

 今回、人手も増えたので、学生や冒険者の方々にも協力してもらい麦畑を広げられるだけ広げたのだ。


 最早、地平線の彼方まで麦畑。


 するとだ、どうした事でしょう、なんと! モンスターが寄り付かなくなったのだ。

 よく考えたら単純な事だ。

 イネ科の植物は動物のエサに適さないように進化をしており、草食動物ですら避けて通るほど。


 すなわち、麦畑にはエサとなる動物は存在しない。

 そしてエサがなければ当然、モンスターだって寄り付かない。


 巣穴を出て俳諧しているモンスターは大概、腹が減っている。

 レジャー目的で徘徊している野生動物は、ほとんど居ないだろう。

 となると必然、エサがありそうな場所へ向かう。


 目の前に地平線の彼方まで続く麦畑がある。


 エサが無いと分かっていながら、そこに突っ込むだろうか?

 大体のモンスターは迂回して森や草原を進む。

 それは空を飛ぶモンスターだって同じ事。


 その結果、モンスター被害は減ったが、モンスターから魔石が獲れなくなった。


 まあ、畜産でも始めれば別なのだろうか、畜産は年単位での準備が必要だ。

 種をまいて数か月後には出来る、等と言う物じゃあない。

 おかげで我がダンジョンシティは、お肉と魔石の調達に他国からの輸入に頼るしか無くなっている。


 まあ、思わぬ形で課題だった平地での栽培方法について解決策が出たのは良かったのだが。


 えっ、刈り取りの時はどうするのかって?

 別に全てを刈り取る必要も無い。

 端の方は自生させときゃ良い。


 城壁を作る事に比べれば安い物だ。


「それで、帝国の人達は女王陛下になんと言ってきたのです?」

「君が欲しがったダンジョンの近くには、千年以上に渡ってそこの恩恵を受けていた街があるそうだ」


 そこのダンジョンを活動停止にされてしまうと、街が立ち行かなくなる。

 幾つか別のダンジョンを紹介するので、そちらに変えて貰えないだろうかと。


「でもそれじゃあ、彼女はウンと言わないだろ?」

「そうですね」

「そこで私は交渉してみた!」


 なんとなく繋がって来たな……


「なあに、ダンジョンは無くならない、獲れる品は変わるだろうが、下手をしたら今より産業は増える」


 ダンジョンは繋がっているのだ、だったらそこを、ココと同じようなダンジョンにしてしまえば良い。

 グランサード帝国も我がダンジョンと同じ物が手に入って嬉しいだろう。

 仕事は増えるだろうが、きっと嬉しい悲鳴に違いない。


「ハーキャットさんは納得してくれますかね?」

「なあに、交渉は任せておいてくれたまえ」


 等と胸を張って言っているが、本当に任せて大丈夫だろうか?

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