第81階層
「総員、構え!」
立ち、膝立ち、しゃがみと3段構えにした無数の銃口がダンジョンのモンスターに向けられる。
そう、あるだろうと思っていた長銃。
教会の裏で火薬を作っているぐらいだ、だったら銃にだって手を出していないはずがない。
怒らないから出しなさい、と言ったら結構な品物が飛び出した。
オレが支援した教会で育ったイースチルドレンと呼ばれていた子供達。
なんと、長銃の開発をしていたのだった。
さすがにハンドガンの様な小型化や、連射性能のある銃は出来ていなかったが、きちんとライフリングを刻まれた、後装式の銃を開発していた。
こんだけ良い物が出来ているならもっと早くに表に出してもおかしくないとは思ったのだが、あまり使い勝手が良くなかったらしい。
なにせ発射される物は、小さな鉄の礫だ。
しかも発射された後には『異世界補正』が掛からない。
ここで言う異世界補正とは、魔法やモンスター肉を食って強化している人の力を指す。
相手が人の様な軟弱な動物ならともかく、モンスターの様なタフな動物では、少々体に穴が開いたところで止まらない。
そんなタフなモンスターを倒すためには、モンスター肉で強化された筋力でぶった切るか、魔法を使って大ダメージを与えるしかない。
さすがのモンスターも首を刎ねられれば死にもする。
手足がふっとびゃあ、その分、動きも制限される。
だが、手元を離れた弾丸にはそのどちらも影響しない。
火薬の爆発の反動で飛び出しただけだ。
鉄より硬い装甲を持つモンスターには意味をなさないし、ゴブリンクラスの雑魚であったとしても、一発で致命傷を与えるには心もとない。
さらにだ、打ち出す度に大きな銃声がする。
その銃声の所為で、遠くのモンスターまで引き寄せてしまう。
対人戦がほぼ無いこの世界では、表に出しても使い道がほとんど無い状況だったらしい。
むしろ、表に出すことにより、対人戦が増える危険性すらある。
火薬を使う物全般に言える事だが、音をなんとかしないと、外では使用できない。
そう言う訳でお蔵入り、今まで倉庫の奥で眠っていたそうだ。
ただまあ、何事も物は使いようである。
一発一発の威力が弱いのなら数を増やせば良い。
銃声で遠くの敵をおびき寄せるなら、おびき寄せてから攻撃すれば良い。
それに銃だけに拘る必要も無い。
目や足などにダメージを与えられたら近接戦になっても有利な状況を作り出せる。
そもそも遠距離攻撃と言うのはあくまで補助である。
少しでも犠牲を減らせる方法があるのなら試してみるのも良いだろう。
事実、今までうちの班は誰一人として欠けていない。
銃撃で弱らせておいて、近寄ってきたらタコ殴り。
近寄って来ない敵は的も同然。
とはいえコスパはすこぶる悪い。
飛び出した弾丸は再利用出来ないし、加工する機材も無く全てが手作業。
そのくせ、ほんの少しの狂いが大事故に繋がりかねない。
そこでハーキャットさんにお伺いを立ててみた。
今回はあんたからの依頼なんだから、弾丸ぐらい用意してよ、って。
弾丸なんて唯の鉄の塊、火薬だって各種素材を適量混ぜるだけと言う単純な製法。
ダンジョンさんなら余裕だろ?
すると『今だけよ?』というアニメキャラのスタンプを出したのと同時に、大特価と貼られた弾丸の自販機がダンジョンに誕生した。
さらにポータブル転移ポーターを作って貰う。
移動出来るのはダンジョン内限定ではあるが、2個セットで片方から片方へ一瞬で転移できる装置だ。
カーラード王国からグランサード帝国へ続く、リニアモンスターカーの通路の途中に巨大な門が壁に出現していた。
どうやらそこがバッティングした場所の模様。
態々、入口まで作ってくれるとは、向こうさんもノリノリじゃね?
そこまで大量の人間をリニアモンスターカーで輸送し、ポータブル転移ポーターの片方をセットする。
後は休みなく交代制でダンジョンを攻略していけば、それほど時間がかからずにダンジョンコアまでたどり着けるだろう。
食料や足りない物があれば、すぐにリニアモンスターカーで持って来られる。
ダンジョン攻略にあたり、冒険者の方達にも協力して頂ける事になった。
こっちに来ない冒険者についても、商会に預けている強力な武器防具を、ハーキャットさんとの1日デート券と引換に寄付してくれる人まで居た。
ええんかソレで……とは思ったが、まあ、使っていて壊れても困るし寄付してくれるならありがたい事だ。
壊れなかったら、また彼らの保管倉庫に返しときゃ良い。
また、回復薬についても自販機で販売される様になった。
ただし、こちらは日本円だけでは買えない。
日本円とは別に薬草と魔石をセットで置かなければならない。
薬草の種類によって、効果も変わる。
薬草ぐらい、ダンジョン農園で栽培しろよ、とも思ったが、そう言えば不思議とダンジョン内で薬草は生えていないんだよな。
何か特殊な理由でもあるのだろうか?
特にうちのダンジョンの上は一面の麦畑だ。
どこにも薬草が無いので、今まで回復薬そのものは調達出来なかったのかも知れない。
ポータブル転移ポーターについては、ダンジョン内であれば階層を飛び越えても移動は可能だ。
集まった人員を幾つかに振り割って、4時間ごとに交代させる。
重傷者が出た時用に通路に臨時的な医療設備も設置した。
準備が整ったので数日前から攻略を開始している。
そして、そのうちの一部隊をオレが指揮している訳だ。
モンスターと戦った事も無いオレが指揮するのは悪手なんだが、そうも言ってられない事情が発生したんだよな。
ある日の事だ、
「日本円ダンジョンの2号店をオープンしよう!」
またしても、バカが馬鹿な事を言いだしたのだった。
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