第77階層

「イース様、帝国子息連中から要望書が届いていますよ」


 皇帝陛下が我がダンジョンシティに引っ越してきたと同時、本格的な学園都市計画が始動した。

 各国より生徒を募集し、教育機関を立ち上げる事にしたのだ。

 教師役にはイースチルドレンを呼び出した。


 このダンジョンで自由に研究して良い代わりに、子供達に勉強を教えてね、という交換条件だ。


 ウドゥの奴は最後まで反対していたが、背に腹は代えられない。

 他に教師の当てが無いし、オレが教師になる訳にもいかんだろ?

 最終的には階層別に難易度を設定しようと思ってはいるのだが、まだ始まったばかりで実績も無い。


 数時間で行き来出来る国であればまだしも、リニアモンスターカーの直通路が無い国だってある。


 なので一旦は国ごとで近場に固めて泊めている。

 まだまだ生徒の数も少なく、部屋も大量に余っているから今のところは問題ない。

 で、帝国から来た生徒達からなにやら要望が出ているらしい。


「え~と何々? 教室まで歩くのが大変なので、自分達の住んでいる近くを指導教室として欲しいだって? たるんでるんじゃね、コイツら」


 アクレイシス女王がその要望書を見て呟く。


 まったく都会のモヤシっ子め。

 良いから歩け。

 と言いたい所だが、モンスター肉を食って強化されている他の国の子供達と比べるのは少々酷かも知れない。


 しゃ~ない、ココは一つ、ハーキャットさんにお伺いを立ててみよう。


 まずは女王お抱えの細工師に模型を作って貰う。

 こないだ人体模型とか作って貰ったから、むっちゃ警戒されている。

 さすがにアレは堪えたらしい。


 でもまあ、医学の進歩には必要な事デスヨ?


 それにしても結構な腕前でございます。

 頼んだ物を短期間で、注文した通りの形で作り上げる。

 いったい我が女王様は、どこからこんな人材を見つけて来るのだろうか?


 出来た模型とダンジョンコアを持ってハーキャットさんの元へ向かう。


 要求されたコア数は10個。

 さて、ここからが交渉の始まりだ。

 オレだって毎回ぼられてばかりいる訳にはいかないのだよ。


 オレが要求したもの、その名もムービング・ウオーク、そう動く歩道だ。


 エスカレーターを床に敷いた様なもので、乗っているだけで移動出来る通路。

 前世の空港でよくある奴。

 動く床ぐらい、ダンジョンさんなら朝飯前だろう。


 オレはこのダンジョン模型のとある階層を指さす。

 そして一つだけダンジョンコアを差し出す。

 そう、10回層あるダンジョンに設置する必要数が10個なら、1回層分だけなら1個ですむ。


 さすがに、そう何回も宝物庫のダンジョンコアを空にする訳にはいかない。


 ムムムッと唸るような仕草をしたアニメキャラのスタンプを出すハーキャットさん。

 今回は別に、どうしても欲しいと言う訳ではない。

 学生達にも要望を出せばなんでも通ると思って貰っても困る。


 出来ないなら、出来ないでも構わない。

 さて、どうするハーキャットさん。


 そのうち、頭の上にピコンとビックリマークを表示するハーキャットさん。

 何かを思いついた模様。

 ゴルフクラブみたいな物を取り出してスィングの練習をする。


 オレがそっと地面にダンジョンコアを置くと、その前に立って大きく振りかぶる。


 パシュッて言う良い音と共に、オレが指示した階層へ向かって飛んでいくダンジョンコア。

 それが内側にある手摺に当たった瞬間、一階のステーションから上に、壁を伝って虹色のオーロラが立ち上がる。

 それが過ぎ去った後、そこには、転移エレベーターまでの動く歩道が出来上がっていた。


 それも、指定した階層だけでない。


 この1階のステーションエリアまでも、その動く床が設置されている。

 おお、ダンジョンさん、もしかしてサービスしてくれたんですか!

 ウンウンと頷くモーションをするハーキャットさん。


 さすがダンジョンさん、さすダーさんだな!


 そう思って喜んでいたのだが、それはダンジョンの罠であった。


「どうしますコレ?」


 そう言って、大量の紙の束を指さすファリスさん。


 ダンジョンさん、サービスで全ての階層に動く歩道を設置してくれたのは良いのだが、それは最内周の通路と、そこからちょっと入った所まで。

 1階のリニアモンスターカーの積み下ろしにしても、全然距離が足りていない。

 で、動く通路の利便性を知った皆様。


 そりゃもう、もっと伸ばして欲しいと大量の要望が届く訳ですよ。


 一応、オレが指示した階層は全ての通路に設置されているのだが、それが却って、なんであそこだけ、という不満にも繋がっている。

 動く歩道ぐらい大した事では無いと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。

 皆、誰だって楽をしたいんだ、特に荷物の多いステーションエリアではそれが有るのと無いのでは大きく変わる。


 とりあえず少しずつでもと思い、もう一個ダンジョンコアを持って行って、1階のステーションエリアへの設置をお頼みする。


 なお、そのダンジョンコアは帝国に出して貰った。

 リニアモンスターカーの運営はお任せしているんだから、利便性の向上に対する拡張はそっちが持ってよ。と言って。

 他の階層はどうしようかなと思っていた所、知らないうちに、全階層に動く歩道が設置されている。


 アレ? なんで?

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