第78階層 寄付ならおkバージョン2
原因が判明した。
どうやらハーキャットさんが営業に回ったらしい。
ダンジョンコアくれたら動く歩道を設置してあげるよって。
だが、ちょっと待って欲しい。
うちのダンジョンシティは外からの財産は持ち込み禁止だ。
それはダンジョンコアだって例外ではない。
だから勝手に与える事は出来ないはず。
と、思っていたらウドゥの奴が絡んでいやがった。
「これは寄付だ、そう言われれば受け取らない訳にはいかねえだろ? おめえも散々やって来た話じゃねえか」
何を今更そんな事を言っているんだ、と不思議そうな顔をする。
なるほど、その手で来やがったかダンジョンさん。
確かに、オレも散々やって来た話だ。
それを今更、ウドゥにやるなと言っても筋の通らない話だろう。
だがな、このまま放置する訳にもいかないんだわ。
互いに競い合って、階層ごとに格差が発生し始めている。
特に帝国貴族の子息達、親の権力と財力を使ってハーキャットさんに散々貢いだようで、その階層だけ、随分豪華な仕様に変わっている。
地面とか絨毯で、壁には外の風景を映すパネルまで設置されている。
各部屋に小さな転移ポーターが設置され、食堂から直接、料理を転移させるシステムまで実装されていた。
アカンだろコレは。
貴族と平民の壁を取っ払うべき学園都市において、完全に貴族向けフロアが完成している。
これ以上の格差は望むべくもない、と判断したオレは、全校生徒を集めて、
「ダンジョンに勝手にエサを与えないでください」
と通告する羽目になった。
特定階層だけをアップデートするモノは禁止。
全階層を満遍なくアップデートするモノは、場合によっては許可を出すので事前に確認を取る事。
その辺りは、ウドゥにも理解してもらった。
隣でハーキャットさんはブーブーと非難するアニメキャラのスタンプを出してはいたが。
ちょっと油断したらコレだ。
ダンジョンは本当に怖い所だぜ。
なんとかして、人を競い合わそうとする。
そっちの方が進歩が早いのは分かってはいるのだがな。
「イース様、また要望書が届いていますよ」
もう、目安箱は止めようかなあ。
「何々、ハーキャットさんが可哀想、金なら出す、俺の嫁にするのでぜひ下さい。だってさ」
どこのバカだ、そんな事を目安箱に放り込んだ奴は。
「何々、ハーキャットさんは皆のアイドル、一人で独占はさせないぞ。だってさ」
目安箱で喧嘩しないでください。
「何々、ハーたんは私の嫁だ、誰にもヤラン。……どっかで見た字だなあ」
ハーキャットさん、大人気ですね。
後、最後の人、あんたの嫁じゃねえから。
ハーキャットさんの部屋に入り浸らずにちゃんと仕事しろ。
今回、各階層を回った事により、冒険者や騎士団以外にもファンが出来たようだ。
「あのまま、彼らにダンジョンの強化を任せても良かったじゃない?」
「どれだけ成長させるかより、どう成長させるか、が重要ですよ」
「ふ~ん、やれるとこまでやって、後で調整するのじゃダメなん?」
それもまあ、悪くは無いんだがな。
事実、前世でも後の事は考えず、持てるだけのリソース、どころか借金までしてジャンジャンつぎ込んだ所ほど成長が早い。
当然、後で色んな問題が起こるが、儲けた金銭で補償して今はホワイトです、って言っときゃ大概は許される。
巨大企業で最初からホワイトだった会社がどれだけある物か。
ただなあ、それをやるともう、共産主義は諦める必要がある。
多くの社会主義国家が目指すべき共産主義から遠ざかり、経済は資本主義となって行ったのも、ほぼそれが原因であろう。
何せ後の事も、今の事すら抜けているのだ、格差が広がらない訳が無い。
先に進んだ奴から富んで行く。
時代に付いていけない奴から落ちていく。
そして一度広がった格差は革命が起きない限り縮まらない。
前世の先進国並みの教育と人権が発達した世界ならまだしも、切り捨て御免がある世界でそれが起こると、切り捨てられる命が膨大な数になる。
社会的なセイフティー制度がない状況で、ごく一部の人間が富を独占してしまえば、命を紡ぐ最低限の食糧ですら手に出来ない人が現れる。
思想すら発展していないのだ、富を独占した人間が、今日食べる物が無く飢えている人間を気にかける事など無い。
発展した飽食の時代であれば、多少、富を独占しても問題なかろうが、ギリギリ行き渡るかどうかの時代で独占すりゃ、そりゃ食えずに餓死する人間も出てくる。
人は命が掛かれば、怠け者だって立ち上がる。
そして、そんな怠け者ほど、人を扇動するのに長けていたりする。
なにせ、自分は働きたくないから人を動かそうとする。
行き着く先は、一揆か暴動か。
まあ、そうならない様に調整をするのが政治家のお仕事なんだがな。
オレとしては、多少発展が遅れても、問題が起きないに越した事は無いとは思っている。
「女王陛下はそちらをお望みでしたか?」
「う~ん……発展自体は良いんだけどね、内装を強化するより、どっちかと言うと外に目を向けたいところだね」
ふむ?
どういう意味か聞こうとしたところ、突如、激しい揺れが起こる。
何!? なにごとぉ!!
慌てて部屋の外に出て、中央の吹き抜けのエリアに向かう。
そこでは他の階層からも人が覗き込んでいる。
まさか、ダンジョン全体が揺れたのか?
地震がおこると、さすがのダンジョンさんでも全ての階層が揺れるのだろうか。
ふと見ると、リニアモンスターカーのステーションエリアでハーキャットさんが、こっちに向かって手招きしている。
急いでそこに行くと、突如、空中にパネルが浮き上がる。
そこには巨大なドラゴンが映っていた。
と、そのドラゴンが炎を吐き出す。
それが画面いっぱいに広がった瞬間、またしてもダンジョン全体に大きな揺れが発生する。
まさか……このダンジョンに対してドラゴンから攻撃を受けているのか?
ハーキャットさんが何やら地面を指さしている。
そこにはスライムが一体。
ファリスさんがプチっと潰す。
すると宝箱が現れた。
なんだこれ、懐かしいな……
その宝箱に入っていたものは――――前世のゲーム機に付属していたゲームパットであった。
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