第72階層 クレスフィズ・グランサードその3

「えっ、なんで父さんと母さんが、って、やべっ!」


 思わず手で口を押える。

 やっべ~、皇帝陛下の前で、別人を父さんと呼んじゃったよ~……

 コレ、バレたんじゃね?


 だから無理って言ったのよ~、医師様~、たすけ~て~。


「良い、今日はその話をする為にここへ来た」

「へっ?」


 夕食後、部屋で待っていると、皇帝陛下が私の本当の父さんと母さんを連れて訪れた。

 そこで思わず、皇帝陛下が居るというに、父さん母さんと呼んでしまった次第。

 コレはもう、完全にバレたな~と慌てていたら、何やら皇帝陛下が語りだす。


「我が后、カルデリシアは双子を生めるような体ではなかった」


 我が国の貴族、とりたて皇族に近ければ近いほど、生まれた時から体が弱い傾向にある。

 后であるカルデリシアも多分に漏れず、体が弱く、子が産めるかどうかすら怪しかった。

 にもかかわらず、大きくなったお腹からは二つの心音が聞こえる。


 本来なら分かった時点で堕ろさねばならなかった。


 だが、カルデリシアはそれを拒否、若かった私もまた、そんな事は出来るはずが無いと双子の出産を認めてしまった。

 結果、二つの命が生まれると同時に、一つの命を失う事になってしまった。

 皇帝でも無かった当時の私は狼狽えた、ここで双子の出産を推し進めたが為に后を亡くしてしまったなど、皇位継承に傷がつく。


 そこで私は双子のうち、女の子の方を親友に預け、双子では無かったという事にした。


 その預けた親友がここに居る二人であり、預けれらた女の子がお前なのだ。

 等と言う。

 …………ふむふむ、なるほど! で?


 私はちょこんと右手を掲げて問いかける。


「あの~、結局のところ、入れ替わりはバレたって事ですよね? それで私、首チョンパとかされるのですか?」


 そう、私の本当の父親が誰であろうと今更関係ない話よね?

 生みの親より育ての親とも言うし、そんな子は下町に溢れかえっている。

 まだ、親が居ない子よりマシっしょ。


 今大事なのは、クレスフィズ皇子に成り代わっている私の立場はどうなるのか。って事よね?


 首チョンパされないのなら、それで良いんだけど。

 皇帝陛下が困惑した表情で父さんの方へ視線を投げかける。

 父さんは少しかぶりを振った後、


「申し訳ありませぬ陛下、私の育て方が悪かったが故に……」


 こんなアンポンタンに育ってしまってと、陛下に聞こえないような小声で言う。

 我が子に向かってアンポンタンとは何事ですか!?

 私は耳だけは良いんだぞ~。


 オラ、悪口だけは聞き逃さないんだぞ~。


「良い、平民として育ったのだ多少は仕方あるまい。それよりも」


 こんなに丈夫に育ってくれた方が嬉しい。と涙ぐむ。


「同じ双子でもこうまで違うのかと思うほど、丈夫な体に育ってくれた……カーラード王国の言っている事は、もしかしたら真実なのかもしれぬな」


 栄養分の少ない野菜だけでは、人の体を維持するのは適していない。

 肉を食べない事で寿命を延ばすつもりが、かえって寿命を縮めてしまっている。

 知能低下を防ぐという効果だけに絞ったとしても、命を削ってまで必要な事だったのだろうか。


 しかもだ、何代にも続けてそれを行うと、それは自分だけではなく、我が子、我が孫と、代を重ねるほど、体が弱くなる。


 最悪、モンスター肉を一切受け付ける事が出来ない体になってしまうかもしれない。

 どんなものであれ、食べ続ける事により、抵抗できうる細胞組織を体が作り上げる。

 それを作り上げるには、ものすごい時間が必要だが、失う時は一瞬だ。


 なんだが、小難しい話をしているけど、そういう話を聞きたい訳じゃないんだけど?


「結局の所、どうして私は皇子様のフリが必要なんですか?」

「そうだな……クレスフィズ皇子を今、失う訳にいかんのだ」


 そうなれば次期皇帝をめぐってどんな争いが起きるか分からない。

 ただでさえ、体調不良が続く皇子に帝国を継ぐ資格無しと揉めておる所だ。

 その通りにするにしろ、出来るだけ軟着陸を目指さなければならない。


 クレスフィズ皇子を除いた後継者が決まるまでは、今しばらく、皇子を演じて欲しいと頼まれる。


「あの……その……後継者が決まれば、どうなるのですか?」


 もう用済みだ! 等と言って、消されたりしませんよね?

 またしても、皇帝陛下が困惑の表情で父さんの方へ視線を投げかける。

 父さんは少しかぶりを振った後、


「確かに笑っていないときの陛下は悪人顔だが、実の娘を手にかけるような悪人ではないぞ」


 等と、フォローしているのか、していないのか微妙な事を言ってくる。

 陛下も微妙な表情で、今度は母さんの方へ視線を投げかける。

 母さんは、思いっきり父さんを抓り上げる。


 父さんが悶えている隙に私はさらに問いかける。


「その~病弱設定なんですけど……元気に走り回っているどころか、トレーニングをして体を鍛えてるんですが、そこんとこ大丈夫なんでしょうか?」


 陛下が父さんと母さんの方を、あっ、二人とも視線を逸らしている。

 仕方なく私の方を向く陛下。

 当然、私も視線を逸らす。


 困ったぞ陛下。


「あ~、その、なんだ、一つ腹案があるのだが……」


 確かに、この状況で国に戻るのは不味い。


 だから、カーラード王国をキーパンソンにする。

 今回の調査結果を見る限り、かの国は、我が国より技術が進んでいる可能性が多分にある。

 だとしたらだ、第一皇子を婿に出してカーラード王国を取り込むと言う姿勢に見せかけるのも有効だろう。


 つまり?


「お前を、アクレイシス女王の王配へねじ込むのだ」

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