第71階層

「えっ、皇帝陛下がこっちに住むの!?」

「ええ、そう言う事になりました」


 なんかヤベ~っていう顔をしている、クレスフィズ皇子。

 なんとか皇都でのハードなネゴシエーションをクリアした。

 最後まで、はっきりとは言わなかったが、向こうさんの要望は、


 ①リニアモンスターカーの運営及び所有をグランサード帝国に移す事。

 ②地上・ダンジョン関係なしに穀物の生産・販売を帝国が管理する事。

 ③現在ダンジョンに住んでいる人間を全員移住させ帝国の許可がある者だけを住まわせる事。


 だったんだろうと思われる。


 さすがにそんなん無理筋だと向こうさんも分かっている。

 今まではそういう無理筋な要望を出せるだけの国力差があった上での事だ。

 日本円ダンジョンへの出向により、その国力差にも今なら疑問が生じている。


 ただ、一度、口に出してしまうと引っ込められない。

 なので、先手を打つ事にした。


 ①リニアモンスターカーの所有件はカーラード王国にあるが運営はグランサード帝国に一任する。

 ②穀物の生産は各自で行うが流通はグランサード帝国を経由する。

 ③ダンジョンの運営はカーラード王国・グランサード帝国ともに同数の議員を算出し多数決で決める。


 最後に、


 ④この日本円ダンジョンはカーラード王国の王都でありグランサード帝国の皇都でもある。


 そう、このダンジョンシティは一国二制度を行う二つの国の共同都市としたのであった。

 ココにあるモノは研究機関と学園機能。

 それならば象徴的な意味合いとしての首都に設定しても問題はない。


 ただ首都である以上は、国の代表者がお住まいになる必要がある。


 なので我が国からはアクレイシス女王が、グランサード帝国から皇帝陛下が、それぞれココでお住まいになる事が決定した。

 女王様は前から住んでいるけどね。

 別にこれをそのまま言った訳じゃない。


 ①では、リニアモンスターカーのメンテナンスや増設は帝国じゃ出来ませんよ。

 なので、期限や条件などは付けないので貸出、という形にしませんか? など。


 ②では、泥臭い作業は我ら下っ端に任せといて下せえ。

 帝国様は、出来た物の販売さえしてくれれば良いですよ。


 あくまで我らカーラード王国は下請け。

 お金儲けは全部、帝国さんにお任せします。

 と言った感じです。


 よしっ、コレで虎の威を借りる狐が誕生したな!

 表向きはぜ~んぶ帝国にお任せして、オレたちゃ好きな事だけやっていける。


 別に金が欲しい訳じゃない。

 そりゃダンジョンコアを買う資金は必要だが、それぐらいなら帝国に中抜きされても十分溜まる。

 ただでさえ、うちの国だけがお金持ちになって顰蹙も買っていた所だ。


 全部、帝国さんが持って行きましたよ、等と言っときゃ我が国に対する顰蹙も収まる。


 むしろ同情票すら貰えるだろう。

 その分、帝国にヘイトが集まるが、元々覚悟の上だろうからそこらへんはお任せだ!

 特に、リニアモンスターカーの運営は金は溜まるが、クッソ負担だったからとても助かる。


 帝国なら頭の良い事務員も多数居るだろうから、きっとなんとかしてくれる。


 運行ダイヤの管理やら、荷物の引き渡しスケジュールやら、ほんと、パソコンどころか電卓すらないこの世界じゃ、まともな運営なんて出来やしない。

 毎日のように、荷物が届いてないぞコラやら、この荷物どこへ送るんだコラやら、怒鳴り声の応酬で問題ばかりであった。

 流通業ってほんと、大変ですよね。


「しかしこれは、帝国にとって第一段階、かも知れないよ?」


 まあ、そうでしょうね。


 まずは突破口を作り、徐々に侵食していく。

 よくあるパターンですわ。

 彼らは権謀術数の鬼。


 我が国の貴族を取りこみ、分裂、内紛、王家の首を挿げ替える、ぐらいはやりかねない。

 ただ、こっちはこっちで時間稼ぎは出来た。

 ここまで国力の差がありすぎれば、一瞬にして飲み込まれた可能性だってある。


 それにだ、向こうさんはこちらの貴族を取り込もうとしているが、逆が出来ないと何故そう思う。

 大国ってぇのは中々、上には行けない。

 順番待ちが多いからな。


 だが、我が国に協力してくれれば……将来性も我が国の方が……等と囁けば、どうかねえ。


 ある意味、欲深い奴はコントロールしやすいとも言える。

 彼らの欲望に付け込んで、我々の味方になって貰う。

 どうだ、YOUが得意そうな分野じゃないか。


「私がやるのソレ!?」


 逆に、金でも物でも釣れない無欲な人間の方がやっかいだ。


 そして得てして、そういった人物の中の方が能力が高い奴が多い。

 如何にしてソイツのやる気を出させるかってのが課題だ。

 どっちかと言えば、オレもそっち側の人間のはずなんだがなあ……


 何故かダンジョンさんには何時もノせられてしまう。


 ほんとダンジョンさんには負けるぜ。

 こっちが欲しい物を的確に突いて来る。

 餌をぶら下げるのが非常に上手い。


 流石は人間ホイホイとも言われるダンジョン、オレも見習わなければな。


「それで皇帝陛下はいつ来るの?」


 と、クレスフィズ皇子が問いかけてくる。


「もう来ていますよ。ああ、そうだ伝え忘れていました、今日の夕食後、皇子の部屋に行くから待っていろと言っていましたよ」

「ええ……」


 なにやらもの凄く嫌そうな顔をする。

 親子関係が上手くいっていないのだろうか?

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