第70階層

 国庫の資金が尽きかけている。


 なんでこんな事になったんだ?

 はい、私が無駄遣いをした所為です。

 いやでも、無駄じゃないよな?


「まだ、あんな事を言っていますよ」

「旦那も往生際が悪いなあ」

「そもそも、屋根なんて本当に必要だったんですか?」


 すっかりダンジョンさんに乗せられてしまった……

 たかが屋根にダンジョンコア10個って言われた時点で怪しむべきだったのだ。

 ああ……なんか、毎回、同じ事を繰り返しているような気がする。


「まあ、大丈夫じゃない? すぐに運輸業で回収出来るでしょ」


 そうだよな。

 でもまた、お金が溜まったらダンジョンさんに強請られそうな気がする。

 なんとか自分ルールを設ける必要があるかもしれない。


 ダンジョン産の米や小麦は大っぴらに出せないが、地上の収穫が終わればそっちも大量の資金が入る。


 先行投資だと思えば、まあ……

 このダンジョンシティに住んでいる人達も喜んでいたし。

 なお、各部屋のテレビは拡大縮小と視点変更機能が付いている。


 それ付けるだけで、コアが6つとかトんでいったけど……


「ああ、ところでそろそろ、研究成果が出る様ですが」


 何の?


 ああ、グランサード帝国から来ている人達の奴ね。

 帝国から人々がやって来て、そろそろ3ヶ月が経つ。

 地上の小麦でも多少の影響が出始める時分だ。


「どうでますかね、あちらさん」


 今回のダンジョンコアの売買はあくまで近場の国同士で行っている。

 グランサード帝国とはまだ、国交自体が微妙な状況。

 対等な取引……が見込めるのなら良いのだが、向こうは我が国を蛮族と言って憚らない国だ。


 希望は薄いだろう。


 その様な場所に貴重な物品があるとすればどう出るか?

 皇帝陛下はまあ、悪人顔だったが、中身はそれほどでもなさそう。

 だが、問題はその配下だな。


 大国の政治家と言うのは、大抵において欲深い人間が多い。


 何故か?

 それは競い合って、勝った人間がそこに座るからだ。

 競い合うと言う時点でハングリー精神を持っている、欲深くなければ、そもそも他人と競おうとはしない。


 そして、競い合う人間の数が多ければ多いほど、勝ち抜かなければならない数も多くなる。


 心の欲望が薄い奴など、どっかで心が折れる事は必須。

 そんな巨大な欲深選手権を勝ち抜いた存在こそが、大国の政治家として存在しうる者だ。

 欲深い事自体は悪い事では無いんだが……


 自分の欲を満たすために自己啓発を行う。なら言う事は無い。


 だが、大抵において欲深い奴は、他人の持っている物を奪おうとする。

 それが一番、簡単で手っ取り早く欲を満たせるからだ。

 そして、前者と後者が争った場合、まず確実に後者が勝つであろう。


 同じ時間で手に出来るモノの数が違いすぎる。


 だから大抵の政治家は欲深いんだ。

 と言うのはさすがに言い過ぎだろうが、そういう人物が居る可能性は決して低くはない。

 別にそれが全面的に悪い事であるとは言わない。


 欲が向いているベクトルが自分にとって、だけではなく、国にとって、あるいは国と自分にとってなど、自分以外に向いている場合もある。


 ただ、どちらにしろ、自分達、という枠からはみ出た者、に対しては奪っても構わない、という認識を持つことが多い。

 無邪気に、無意識に、場合によっては、そうしてやった方が良いとまで思って。

 知識のある者は、知識の無い者を虐げても良い。


 才能無きものは、底辺をなめとって生きろ。


 それが資本主義、実力主義の世界だ。

 それは努力が足りないからだ、等と言うかもしれないが、努力をせずに生きていける存在は、ほとんど居ない。

 はた目には、まったく努力をしていないように見えても、本人にとっては、それが限界であるかもしれない。


 努力する才能がある者が居れば、努力する才能が無い奴が居ても不思議ではない。


 さらにその努力には結果が伴わなければ評価はされない。

 技術の進んだ国で1時間努力をして宝石を作り出す。

 技術の劣った国で1時間努力をして泥団子を作り出す。


 前者は後者の事をどう思うだろうか?


 その程度の事しか出来ないのか、と見下したりはしないだろうか?

 そしてそれは、差別に繋がったりしないだろうか?

 劣った国の手に黄金があれば、それはお前には身不相応だと言って、安く取り上げようとはしないだろうか?


「彼らが欲しがるもの、リニアモンスターカーとダンジョン産の食物、ですかね」

「たちまちはそれだけかも知れないが、今回出来た可動式のスタジアムに各部屋のテレビ、それを見てどう思うかねえ」

「最悪は、このダンジョンごと、という事ですか」


 もっと最悪があるよ、そう我が国ごと、とかね。と、人差し指をクルクル回しながら女王様がそうおっしゃる。


「それはさすがに無謀では?」

「そうとも言い切れないよ、妙な人達が我が国の貴族に接触して来ている」


 ホントに、どっからそういう情報を仕入れてくるんだコイツ。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「お久しぶりです皇帝陛下」

「うむ、我が子は息災であるか」

「ええ、元気すぎるほどですね」


 いい加減、あの皇子様、持って帰ってくれないかなあ。


 女王がもう一人増えたみたいで気苦労が絶えない。

 しかも、何かと女王陛下と内緒話をしているし。

 仲が良いのは良い事かもしれないが、良すぎるのもどうなんだ?


 …………まあ正直、あの二人がくっついてくれると、色々と解決する事もあるんだがな。


「研究成果は見せてもらった」


 グランサード帝国の皇都、そこにある王宮の会議室の中。

 皇帝陛下のその一言の後、重苦しい沈黙が続く。


「皇帝陛下、お一つ提案があるのですが」

「申してみよ」

「皇都を遷都するおつもりはありませんか?」

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