第39階層
暫くすると速度が落ちていき、ゆっくりと停止するリニアモンスターカー。
オレは先頭の方まで歩いていき、王子達を先導する。
開いた口から出ると同時、ハーキャットさんが『ようこそおいで下さいました』という盛大なスタンプでお出迎えする。
「なっ、なんだコノ……可愛いモンスターは!?」
ファミュ王子、一目見てハーキャットさんをお気に召したご様子。
両手を広げてにじり寄って行く。
それに恐れをなしたのか、オレの後ろに隠れて顔だけをだすハーキャットさん。
なにやら王子様、胸を押さえて蹲っている。
まあ、ハーキャットさんは可愛かろう。
そういう風に作ったからな。
誰だって自キャラは自慢の可愛さである。
と、何時までも漫才をやっている訳にはいかないので、王子を地上へ案内する。
そこは一面の麦畑。
まもなく収穫を開始する、良く実った穂先が垂れ下がっている。
ずっと遠くまで地平の彼方まで。
「こんな短時間で、こんな場所まで来ていたのか……」
そう言って絶句する王子様。
そろそろ腹も減る頃だろうと思い、食堂へ案内する。
「これが、あのバカ兄が自慢していた米と言う食べ物か」
本日の日替わり定食はトンカツ定食で御座います。
みじん切りにしたキャベツを添えて、分厚いお肉を衣で包んだ揚げたてで御座います。
最近、こっそりと自販機にソースが追加されていたので、それをたっぷりとかけて御座います。
騎士達も我先にと、それを頬張っている。
「私は正直、小麦製品は好きではなかったのだ。何せ、肉と食い合わせが良くない。だが、この米と言うのは、肉のうまみを引き立てて、ただ肉だけを食するよりもずっと深みが出ている」
なにやら、王子様の食レポが始まりました。
「そうですね、米だけでも駄目ですし、肉だけでも、きっと駄目なんですよ」
「…………そうか、そうなんだな」
「さらにはこのソースと言う味付けも大事な一部です」
そう言うと何やら考え込む王子様。
まあ今は難しい事を考えずに、食べる事を楽しみましょう。
そして全員が食べ終わった後、オレはダンジョンの応接室にファミュ王子を招く。
この村で唯一の、お客様用のお部屋である。
一応、休憩室として開放しているのだが、あまりに豪華すぎて落ち着かないから誰も近寄らない。
アクレイシス王子じゃないが、カプセルホテルの方が落ち着く。
未だに何人かはカプセルホテルで寝泊りしている奴も居る。
互いに対面に座した後、ファミュ王子が口を開く。
「正直、私などは敵では無かったと言う事か……」
これほど隔絶した技術差があるとは思わなかった。
あの馬鹿兄を捧げれば、それは王家にとって有益となる。
しかし、馬鹿兄を責めれば、それは最悪、敵対しかねない物となる。
「という事であっているか」
「……概ね」
ファミュ王子は、目をつぶり腕を組んで考え事に没頭する。
まあ、あのリニアモンスターカーはどこにでも行ける訳じゃないし、増やせる当てもない。
勘違いしてくれるに越したことは無いが、大丈夫だろうか?
いや、兎に角、今はアクレイシス王子を王にする事だけを優先するべきだ。
「イース・クライセス伯爵。あなたが本当にアクレイシス王子を支えてくれると言うのなら、私は手を引こうと思う」
暫く考え込んでいた王子が目を開けてそう問いかけてくる。
「はい、お任せください」
オレは一も二もなくそれに頷く。
「最後にもう一度確認だ。あなたは、第一王子アクレイシス・カーラードを支え、生涯、国に尽くすことを誓えるか?」
「誓いましょう!」
ファミュ王子は大きく頷くとオレに手を差し出して来る。
オレはその手を握り、がっちりと握手をする。
ハァ~~……良かった~……一時はどうなる事かと。
なんとか乗り切った……色々、やっちゃいけない約束をした気もするが。
だが、厄災はまだ終わっていなかった。
そりゃそうだよね、あっちは勝手に暴走しているし。
アレ、本当に押さえられるんかお前、みたいな視線を投げかけてくるファミュ王子。
「皆様! 実は私は女性だったのです!! だと言うのに、王は、王家は、私に男になれと言った! そうして私は生きて来た!」
リニアモンスターカーに乗って王都に戻って来ると、街頭演説をしているアクレイシス王子に出くわした。
「皆様! 私は悲劇の王女なのです! しかし私は国を恨んでいない、それどころか、もっと良い国にしたいと思っています!!」
自分で悲劇なんて言っているよ。
あいつ、男に戻れないもんだから、女性の姿で同情を惹こうとしてやがる。
せっかくファミュ王子と話が付いたのに、これじゃ全部台無しだよ!
さすがに王宮批判をする人物を王に認める訳にはいかないよね?
隣のお方をこっそりと覗き込む。
眉間に青筋をおっ立てておいでだ。
ウドゥさん、ほんとあの暴走列車、どうやったら止まりますかね?
せめて、なんかアドバイスくださいよ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「バクラット、私は王位継承権を放棄する。お前が王になれ」
「は? 何を言っているのですが、ファミュ兄上」
父上に詳細を聞いた、まさか……あの演説が本当の事だったとは。
私は……女相手に本気になっていたのか?
そして、完膚無きまでに叩きのめされたと言うのか?
「兄上? 兄上ってば!」
「私はもう駄目だ……私のような矮小な存在が王になるなど、片腹痛いわ、ハハハ……」
「兄上がおかしくなった!?」
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