第38階層 お話をしませんか?
オレはファミュ王子を連れて地下へ向かう。
「どこへ行こうと言うのだね?」
「罪状には証拠が必要でしょう?」
先ほどの咆哮の所為で、皆さんの腰が引けている。
とはいえ、明確な証拠が無い罪状に対し、証拠があるかどうかを調べに行くんだ。
付いて来ない訳にもいくまい。
罠を疑ってか、ファミュ王子にはがっちりと騎士が張り付いている。
「さあ到着です、これが秘密の地下道ですよ」
そう言ってリニアモンスターカーの目の前で両手を広げてご案内する。
「ひ、秘密の抜け道どころか……なんだこの巨大なモンスターは!? こんなモノを王都の地下で飼っていたのか!」
「大丈夫ですよ、とても大人しい子でしてね。ただ、走るだけしか出来ない、安全なモンスターです」
そう言うとオレは、リニアモンスターカーの顔に触れる。
するとパカリと大口を開けるリニアモンスターカー。
それを見て、騎士達は悲鳴を上げながら後ずさる。
これ幸いとオレは口の中に入っていく。
「何をしている!? まさか自殺する気か!」
「いえいえ、コレはこうして乗る存在なのですよ」
さあ、王子もどうぞ。と、誘ってみる。
しかし王子達の足は動かない。
ま、そりゃそうですよね、来ないなら、来ないで良いのですよ。
このまま逃げさせてもらいます。
むしろ、そっちの方が良いかも?
そんな淡い期待を他所に、ファミュ王子が一歩足を踏み出す。
「王子、危険です! きっとコレは罠ですよ!」
「良い、どのみちココでイース卿を逃がしてしまえば、最悪が訪れる」
「しかし、モンスターの口の中に入って無事におれるはずがありませんよ!」
くどい、と言って、乗り込んでくるファミュ王子。
それに続いて騎士達もおっかなびっくりとした態度で乗り込んでくる。
普通、逆だろうに。
この国の騎士の質も高くはないな。
最後の一人が乗り込むと、バクンと口が閉じられる。ビクッとして全員が振り返る。
「慌てなくてよろしいですよ。この道がどこへ続いているか、興味はございませんか?」
「…………良いだろう、案内してもらおうか」
「王子! いくら何でもそれは……待ち伏せされていれば、一巻の終わりですよ!」
王子は黙ってジッとオレの方を睨み付けてくる。
「最初に言ったでしょう、私は唯、あなた様とお話がしたいだけです」
そう言って、近場の椅子に腰かける。
「さあさあ、立っているのもなんですから、そちらにお掛けになって下さい。ここなら、込み入ったお話も出来ましょう」
あまり大きな荷物を運ぶ事も無いので、内装を整えて幾つかのソファーや机をリニアモンスターカーの中に設置している。
全員が腰かけた瞬間、フワリと浮かぶような感触がしたかと思うと、猛烈な勢いで走り出す。
ファミュ王子は怖い顔をして窓の方を向き、その様子を見ている。
「穀物だけでは……ないと言う事か……」
そしてそう呟く。
何やら意気消沈しているご様子。
オレはここぞとばかりに話を始める。
「まず、個人的な意見を申し上げますと、個々人の能力で言えば、アクレイシス王子よりファミュ王子の方が王として相応しいと思っております」
「……ほう?」
「しかし、それは少々勿体ない、とも思っております」
一瞬驚いた様な表情をしたかと思うと、続きを目線で催促される。
ファミュ王子、あなたは前回も今回も、先頭に立ってやって来た。
そうやって前線に立ってこそ、あなたの能力が最大限に発揮出来るのではないか。
王になれば、その才能は死蔵されてしまう。
何故なら、王という存在は決して失われてはならない象徴であるからだ。
そんな象徴が前線に出るなどもっての他。
王という存在は、後ろでふんぞり返って、情報を集め、命令を出す事がなによりも大事である。
あなた様なら、その能力も存分に持っているでしょうが、それよりも先陣を切って前線で戦う方が向いているのではありませんか。
みたいな事を伝えてみる。
ようは、よいしょ作戦である。
王様より、もっと向いている仕事がありますよ?
だから王様は別の人に任せませんか、と言った所だ。
「仮にイース卿の言う通りであったとしても、あの馬鹿兄に王が務まるはずがないだろう」
「彼、個人だけなら当然そうでしょう。しかし、彼にはこのイース・クライセスが付いております。彼に足りない能力があるのなら、それは私が補って進ぜましょう」
「…………ならば第三王子、バクラットにそなたが付けば、なお良い結果にならないか」
「聞くところによると、バクラット様も大変優秀なご様子、私が手を貸す必要はどこにもございませんよ」
補うと言う事は、足りていないモノがあると言う事。
三人の王子の中で、最も私の力を必要としているのはアクレイシス王子であり、一番初めに私の力を欲したのも彼である。
そして、長年の付き合いの間で、彼とは切っても切れない絆が生まれている。
たとえ、どんなに金銭を積まれ様とも、たとえ、どんな地位を約束され様とも、彼以外に、イース・クライセスが付くことは決してありえない。
人の絆って言うのはね王子、損得を超越した存在であるんですよ。
そして、私とアクレイシス王子との間には、そんな絆が出来てしまった。
義理人情とも言うのですかね、それが出来てしまった以上はどうしようもないのです。
これがあなたに差し出せる、私の答えであります。
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