第37階層

「えっ、ガーネットがやって来て王子を連れて行った?」

「はい、電光石火の出来事でした」


 なんであの二人混ぜたの? 一番、混ぜたらアカン奴だろ?


「そうは言われましても、私共も何が起こったかさっぱりでして」


 元暗殺者の隙を突くって、相変わらず意味不明な能力を持っているな。

 いったいどこで覚えて来るんだろう。

 オレの変な、前世の妄想を本気にしているんじゃないだろうな?


 前世では空想上のモノであったとしても、こっちの世界では魔法があるから、再現出来ない訳じゃないのが怖い。


「どこへ向かったかは分かりますか?」

「商会の本部へ」

「まあ、そこしかありませんか……何かをやらかす前に、止めないといけませんね」


 とりあえず元商会長のウドゥの意見を聞こうと、リニアに乗って村へ向かう。


「えっ、なんであの二人混ぜたんだ。ヤバいだろぉ、それは」


 コイツ、オレが思ったのと、同じ事を言っているな。


「良く分かってねえだろ? いいか、ガーネットには金がある、王子には権力がある。それが合わさるとだな……」


 ああ、ヤバいわ。とってもヤバいわ。ヤバいで表現して良いのか分からないほどヤバいわ。

 あの二人がそれを手に入れたという訳だ。

 そりゃもう暴走列車にブースターを付けた状態。


「俺のとこに来てる余裕なんて無いだろ、さっさと引き離してこい」


 シッシっと手を振るウドゥ。

 それを手伝ってと言いに来た訳なんだが。

 そう言うと嫌そうな顔で答える。


「馬鹿言うなよ、ブースター付けた暴走馬車の前に立つ勇気のある奴なんて居るかよ」


 そこを何とかと頼み込むのだが、無理無理と拒絶される。

 あんたがガーネットに金と地位を与えたんだろ、なんとかしろよ。と言っても。

 何時かはそうなっていたんだから変わりはしねえ。等と返される。


「こんな所で押し問答しているのこそ、無駄な時間だと思うのですがねえ」

「シッ、黙ってろ。少しでもめんどくさそうなのが後に出来るだろ」

「たぶん、彼らも心の中ではそう思っているんじゃありませんかねえ」


 分かっているよ!

 ここで揉めても、後回しになるだけだって!

 そして大概、こういうのを後回しにすると碌な事がない。


 分かっちゃいるんですよ……


「ああ……帰りたくありませんねえ……」

「いいから早く行って来い。絶対、早い方が良いぞ」


 渋々とリニアに乗って屋敷に戻る。

 するとそこには、いつも王子の傍にいた執事風の方が訪ねて来ていた。

 なんでも一緒に商会の本部に行ってくれるらしい。


「いったい何者なんですかな、彼女は?」


 何者かと聞かれてもねえ……こっちが知りたいぐらいですわ。

 普通に教会で育って、普通に商会へ就職して、普通に商会長に……は、ならないよな?

 そうだ、きっと何もかもウドゥが悪い。


「まだ言っているんですか? 彼は、危機察知能力だけは高い、その彼が、ヤベッ、コイツからサッサと逃げるべき。だと思って商会長に据えて逃げたのでしょ」


 どんだけ危険人物だと思われているんだ?

 一体、商会で何をやらかそうとしたんだ?

 怖いよホント。


 さっそく商会の本部に向かったのだが、


「商会長ですか? 現在、行方不明です」


 等と言われる。

 どうやらすでに動き出していた模様。

 ああ、ウドゥさん、あんたの言った通りだったわ。


「何をやろうとしているか、聞いていないのですか?」

「通信機は速攻で星になったようですからなあ」

「どうして通信しているのがバレてるんでしょうねえ」


 オレでも知らなかったのに。


 二人して頭を抱え込む。

 とりあえずその場は解散して、行方を追う事にする

 そして数日後、とんでもない情報がもたらされる。


 なんでも、この国、第二の経済力を誇る街を治めるお方、パスティーニ公爵が、第一王子アクレイシス・カーラードに付いたという話だ。


 パスティーニ公爵は元々第二王子最大の支援者。

 この公爵が第一王子に付くとなると、一気に天秤が傾くぐらいの大物。

 当然、第二王子からの信任も厚かった訳だが。


 そりゃ怒りますよね? 激オコですわ。でもね、それをオレに言われましても。


「申し開きはあるかね?」


 目の前には、憤慨した第二王子ファミュ・カーラードが立っている。

 オレ、実は何も知らないんですわ。

 こっちも困惑している所なんで……などと言っても無駄なんだろうなあ。


「騙されたよ、まさかこんな準備を進めていたなどと……こないだのは、見事な時間稼ぎだったな」


 やだなあ、そんなの進めていた訳がありませんよぉ。

 パスティーニ公爵などという雲の上のお方、日常会話すらした事がありませんわ。

 なんで、こんな事になっているんでしょうね? こっちが知りたいぐらい。


 ホント、一体どうやって味方に付けたのやら。


 なんか恐ろしい取引をしていないだろうな?

 あるいは……何か弱みを握っていたか……商会のネット―ワークを介せば、情報は集め放題だ。

 その方法も以前、前世知識から教えた気がする。


 と、バァンと机に一枚の紙を叩きつける。


「逮捕状だイース・クライセス伯爵。私とて、何も準備していなかった訳じゃない」

「…………罪状は?」

「地下に、秘密の抜け道があるだろう」


 ああ、バレていましたか。

 まあ、色々と物資を移動させているので、そこら辺を調べれば、アレ、コイツ、屋敷に持ち込んだのどこにやっているんだ。ぐらいは想像がつく。

 決定的な証拠を押さえずとも、隠し立て出来る様な物では無い。


 調べればすぐに分かる事だ。


「拘束しろ」


 こないだのとは別の騎士団だろう。

 その騎士達がオレの両脇を押さえようとした時だった。

 突然、地下からものすごい音の咆哮が聞こえ、屋敷がビリビリと震える。


 今のは、もしかして……リニアモンスターカーさん?


 ご主人様が連れて行かれそうになって怒ってくれているのか。

 まあ、足がないので暴れる事は出来ないだろうが…………足、生えないよね?

 もしあれに足が生えて暴れ出したら……


「君達、私に触れない方が良いですよ」


 そう言うとオレは立ち上がる。


「ファミュ王子、少し、お話をしませんか?」

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